2024.03.29

シイタケ栽培がブームに。それでも地元に根ざした農園を目指すワケ・永島太一郎さん

 金沢区釜利谷で500年以上続いている「永島農園」。歴史ある農園で、新たなチャレンジをしているのが永島農縁(のうえん)代表の永島太一郎さんです。販売するシイタケの栽培キットが全国から人気を集める中、地域のつながりを大事に、地元で愛される農園を続けています。

結婚を機に農業の道へ。
シイタケ栽培を本格的にスタート

 永島さんが農家に転身したのは、奥さんとの結婚がきっかけ。永島農園の跡取り娘だった奥さんの実家を継ぐために農業を始めました。

「妻は小さいころから『ゆくゆくは永島農園を継いでくれる人と結婚してほしい』とおばあちゃんから言われていたそうで。元々は外資系金融などで働いていたのですが、結婚したいという思いも強かったので農家になることを決めました」と永島さん。

 農業は全く未経験。金沢区にゆかりはなかったものの、引っ越してくることに対しても特に抵抗はなかったと言います。
 千葉県にある農業生産法人で3年ほど修行したのち、2011年から永島農園で働き始めました。当時、花卉(かき)栽培や養豚、野菜栽培の複合経営を行っていた中、新たな作物を栽培したいと永島さんは考えました。
 そこで選んだのが、シイタケ。広大な畑がなくても育てられること、そして千葉で修行していたときに食べた味が忘れられなかったことが大きな理由の一つでした。採ったばかりのシイタケをその場で焼いて食べたときに、あまりのおいしさに感動したのだとか。
 しかし、古くからある農園で、新しい栽培に挑戦することに対して家族からの反対はなかったのでしょうか。

「祖父のころから新しく花卉栽培を始めたりしていたので、特に反対意見はなかったです。むしろ、農業を続けていくためには時代に合わせて変えていくことも重要だという考えでした」

コロナの影響で、
シイタケ栽培の人気が一気に広がる

 さらに、新型コロナウイルスの感染拡大が思わぬチャンスを生み出しました。2020年の春、取引先である飲食店は営業時間短縮や休業を余儀なくされ、作物を収穫しても出荷先がない状態が続きました。そんな中で永島さんが目をつけたのは、自宅で楽しめる「シイタケの菌床栽培セット」。

「自粛要請を受けて、うちの子どもたちの学校も休校になり、家で過ごしていたんです。しかし、これがまた大変で(笑)、自宅で勉強を進めようにもなかなかやる気にならない。そこで『興味を持ってくれるかも』と思い、シイタケの菌床を農園から持って帰ってきたんです。自宅でシイタケを育ててみたら、家庭学習の一環になるんじゃないかと」

 子どもたちは想像以上に大喜び。シイタケの成長を毎日楽しんでいたと言います。「シイタケを食べ過ぎて、少し嫌いになり始めている長男まで興味を示したんですよね」と永島さんは笑います。
そんな姿を見て、「お子さんの体験学習や食育として、栽培キットを販売したらどうだろう」と商品化を決めました。

 自宅でも湿度を保てば、約1週間で最初の収穫ができます。数個~多いときには20個前後採れるのだとか。収穫後も4~5回は繰り返し生えてくるため、長く楽しめるのが利点です。

 オンラインショップで栽培キットの販売を開始したところ、ヒットにつながりました。想定外だったのが、大人からの人気です。「子どもだけでなく、大人もシイタケの成長を楽しまれていますね」と言います。気軽に外出できない中で、自宅でシイタケが育っていく様子に癒される人も少なくありませんでした。離れて住むご家族にプレゼントする方もいらっしゃったそう。
 テレビ番組などで取り上げられたのも影響し、一時は配送が間に合わない事態に。

「暑くなってしまうと良いものができないため、受付は4月いっぱいで終わりにしたんです。それでも、配送作業を含めてバタバタでしたね。説明書もプリントアウトしたものを同封しただけではわかりにくいという方もいらっしゃったので、動画を作ってみたりと準備に追われていました」

 今後もシイタケ人気は予想されますが、永島さんが目指しているのは地元に密着した農業を行うこと。

「日本一のシイタケ農家になりたい……というわけではないんです。やはり、地域の方に向けてできることをしていきたいんです。いろんな方にシイタケの魅力を知ってもらうこともうれしいですが、身近な方に喜んでもらえるとやりがいもあります。たとえば、うちで採れたシイタケを使ったメニューを飲食店とコラボして作ったりすることもあるんです。地元にはいろいろな方がいるので、横のつながりを作っていきたいですね」

「そして、子どもたちに喜んでもらえるような場所にしたいです。金沢区は緑豊かなエリアではありますが、地元の子どもたちってなかなか農業に触れる機会はないと思います。その中で、子どもたちにとって最初に触れる農業でありたい。うちは職業体験や収穫体験なども行っていますが、子どもたちに『おいしくて楽しいね』と言ってもらうのが理想ですね」

永島 太一郎さん
株式会社永島農縁 代表取締役
神奈川県茅ケ崎市生まれの38歳。サラリーマン家庭に育ち新卒で外資銀行→ベンチャー立ち上げから妻の家業である農業を継ぐために農業の世界に入る。2012年よりおひさまシイタケの栽培、2014年より黒宝きくらげの栽培を開始してほぼ通年でキノコの生産から加工販売まで手掛ける。椎茸狩りやBBQ、収穫体験を通じた食育体験にも力を入れる。

永島農園
〒236-0042  神奈川県横浜市金沢区釜利谷東7-6-17
電話:045-780-5706

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