2024.03.29
捨てられるはずだった農産物に、光を当てる人ーアマンダリーナ・奥井奈都美さん
「もったいない、からおいしいへ!」
この合言葉を胸に、横浜市金沢区を中心に活動をする奥井奈都美さん。行き場がなくなった横浜市産の農産物に新しい価値を加えて、また世の中に送り出す。そんな活動を2015年から行ってきました。
奥井さんが運営する会社の名は、アマンダリーナ(Hamandarina)。スペイン語で「みかん」を意味する「マンダリーナ=Mandarina」と、横浜のHama、そして愛(アマンド=Amando)を掛け合わせて作られた、想いのこもった名前です。
製造、輸送、販売、PR、営業などはを地域の方々の協力を得ながらも、ほとんど全て一人で担ってきたという奥井さん。これまで携わってきた商品のお話、そして商品にかける想いについてうかがいました。
これまで奥井さんはさまざまな商品開発を行ってきました。主な商品は果汁が45%以上も詰まった黄色味鮮やかな「あおみかんドレッシング」や、横浜市の企業とコラボレーションしてつくられた「あおみかんポン酢ドレッシング」。さらに金沢区内の生産者の食材を使い、小学校や養護学校の生徒と一緒につくった「金澤八味」など。横浜市内で開催されるマルシェなどに参加して販売されているため、一度は目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
生まれてからほとんど横浜市を出たことがないという奥井さんが、たった数年の間にこれほどまでに多くの方を巻き込んで商品をつくり続けてきたのは、とある農家で出会った「青みかん」がきっかけでした。
奥井さんが起業をしたのは2013年。起業する前には、それまで勤めていた会社を辞めて1年半ほど、大学時代に好きになったという中南米に、バックパッカーをして過ごしていた時期があったのだそう。現地で出会った人の家に居候させてもらうなど、地元の人の温かな触れ合いを経験したといいます。
帰国してから何らかの形で恩返しがしたいと考え、食を通して異文化を繋ぐ活動をするため、ラテン料理研究家や野菜ソムリエとして料理教室の開催をしたり、横浜市認定の地産地消の案内人「はまふぅどコンシェルジュ」の活動を行ったりしていました。
大きく路線変更したのは、2014年。 野菜ソムリエのコミュニティ神奈川 を通じて、二宮町に””ある温州みかんを栽培する農家を訪れ、摘果体験をしたことがきっかけでした。「摘果」とは、みかんの生育過程で、収穫時に十分な甘さとちょうど良い大きさのみかんに成長するように多くのみかんを間引きすること。摘果したみかんはとても酸っぱくて、美味しく、魅力を感じたのだそう。
しかし必要なこととはいえ、市場に流通させることのできない大量の青みかんが捨てられてしまっている現状を目の当たりにし、「この青みかんを活用して、何か商品が作れないだろうか」と思い立ったといいます。当時やっていた料理教室やカフェで、手作りのドレッシングやモヒートなどをつくったらとても好評だったことも、奥井さんの背中を押してくれました。
そして同時期に開催されていた、横浜市の地産地消ビジネス(横浜市内産の農産物を使った新規ビジネスを育成するプログラム)に「横浜産青みかん商品化プロジェクト」を持ちかけ、見事採択されたのです。現在のアマンダリーナの活動が本格的に始動したのは、この頃でした。
「商品開発なんてまったくの未経験だったので、本当に手探りで始めたんです」と奥井さんは笑います。それでもビジネスプランが採用されてからの半年間は、試行錯誤の日々。マーケティングや試作品づくり、野菜ソムリエや飲食店関係者を呼んだ試食会、商談会などを経て、ようやく商品化にこぎつけることができました。
特に苦労したのは青みかんの爽やかな酸味と、鮮やかな黄色の色味を残しながらも、賞味できる期間を長く保つための品質管理。今ではリピーターも数多く、「もったいないからお皿に残ったドレッシングまで全部飲んじゃうよ!」と言われるまでになりました。
横浜市から始まったビジネスですが現在使用する青みかんの産地は、小田原市、伊勢原市、中井町などの信頼できる農家さんとの取引は広がっています。毎年8月の暑い時期に横浜市金沢区の農園ではボランティアを募り、摘果体験イベントも行っているのだそう。多い時には1.5トンもの青みかんを収穫するというから驚きです。
これからも農家さんを増やし、商品の販売数を増やしていきたいと思うか? と尋ねたところ、奥井さんの答えは「NO」。これ以上提携する農家さんを増やす予定はないのだといいます。そこには奥井さんの商品づくりへの強い信念がありました。
実はアマンダリーナが求める青みかんの条件は、とても厳しいのだと奥井さんは言います。条件は3つ。一つは大きさが35~40ミリであること。これは小さすぎても果汁がとれないこと、熟しすぎても酸味がなくなって甘くなりすぎてしまうことなどを考慮してのことだそう。二つ目に、摘果してから3日以内に出荷してもらうこと。三つめは最後に消毒をかけてから45日以上が経過していること。
提携する農家さんを増やしすぎても、品質管理を維持できず商品の質が落ちることを、奥井さんは懸念しています。その分地元の人に愛される商品づくりができれば、一緒に関わってくれている農家さんもきっと喜んでくれると思う、と力強く話してくれました。
また小さな工場に協力を依頼し、レシピを提供した上で、製造の委託をしているようですが、すべてを任せっきりにはせずに、充填やスチーム殺菌などの工程は一緒になって行っているのだそう。
「イイモノを作り、責任をもって販売したい」という奥井さんの信念が、ここにも通じていました。
最後に「地域で商売をする上で、大切にしていること」を聞いてみました。しばらく考えた後、奥井さんはどんな商売にも通じる、とても大切なことを教えてくれました。
「仕事は、独り勝ちではダメ。そういうやり方は継続していかないと思うんです。自分だけがいい思いをするのではなく、関わるみんながWinになるビジネスをしていかないと続いていかないし、大きくならない。わたしはこれからも、同じ想いをもった人たちを大事にしながら、お仕事をしていきたいと思っています」
ゆくゆくは食品以外にも、青みかんの成分に着目したアロマオイルを開発したり、フードロス削減を目的に、市場に出回らず行き場のなくなった野菜を、干し野菜にして販売することも考えているといいます。奥井さんの野望は尽きることがありません。
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世の中にはきっと、たくさんの「もったいない」が溢れています。地域の中で埋もれているたくさんの「もったいない」に目を向け、光りを当ててまた世の中に出回るようにするまでの努力を、奥井さんは惜しみません。
小さな体から溢れ出すバイタリティーをエネルギーに、地域の農家や学校、企業が一丸となって作られる、アマンダリーナの商品。これから先もずっと、地域のみんながハッピーになれる商品づくりを、奥井さんは続けていくのでしょう。どこかでアマンダリーナの商品を見つけたら、ぜひ一度手に取ってみてください。きっとあなたの食卓に、新たな彩りが生まれるはずです。
奥井奈都美さん
アマンダリーナオーナー
2014年夏、青みかん(摘果みかん)との出会いを機に、それまで捨てられていた青みかんの美味しさと商品としての価値を見出す。”もったいない!から、おいしい!へ”の思いから立ち上げた「横浜産青みかん商品化プロジェクト」が横浜市地産地消事業に認定され、2015年より事業を本格化。青みかんを活用したさまざまな商品を開発。SDGs横浜金澤リビングラボの地域産品、金澤八味の製造を監修。
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