2025.09.26
地元住民と移住者が手を取り合い、三浦海岸の新たなにぎわいを創出。地域主導の観光再生。

かつて賑わっていた観光地で観光事業の担い手の高齢化が進み、観光需要の低迷や集客力の低下につながるケースが日本各地でみられています。
豊かな自然景観や新鮮な海の幸を観光資源とする神奈川県三浦市も、そんな課題を抱えていた観光地のひとつ。京急沿線の三浦海岸エリアでは、長年地元の有志が観光施策を担い、観光客の誘致を支えてきました。しかし近年、レジャーの多様化や住民の高齢化にともない、観光地としてのにぎわいの維持、強化が課題となっています。
そこで立ち上がったのが、三浦海岸エリアの移住者を中心に集まった若い世代。昔から地域の観光を盛り上げてきた事業者など「地元のレジェンド」と、地域の新しい魅力を発見する移住者の融合は、三浦海岸のにぎわいにどのような変化を与えたのでしょうか。
海水浴客が減少。地元有志が1からつくった新たな観光資源
かつて三浦海岸は、海水浴で人気の観光地でした。当時は夏になるとビーチに海の家が並び、県内外から訪れた多くの観光客でにぎわう様子がみられました。しかし、昭和から平成にかけて、レジャーの多様化が進み海水浴は下火に。まちから観光客が少しずつ減少しはじめていました。
こうした背景から1997年、地元住民による有志が三浦海岸に新たな観光資源を生むことを目的に、『三浦海岸まちなみ事業協議会』(以下、まちなみ協議会)を結成。1999年、京急線の三浦海岸駅から小松ヶ池公園までの約1kmにわたる線路沿いに河津桜の植樹をスタートしました。この取り組みには、京急電鉄や市民も参加し、最終的にはおよそ1,000本の河津桜を線路沿いに植樹。開花時期である2月上旬から3月上旬に多くの観光客を誘致しました。


さらに、2003年には三浦海岸の新たな観光イベントとして、三浦海岸駅前のスペースを活用し、線路沿いの河津桜とともに地元の特産物を楽しめる『三浦海岸桜まつり』をスタート。三浦海岸エリアの春の風物詩として定着し、最盛期では、年間30万人前後の観光客が訪れる、地域を代表するイベントに成長しました。

海水浴場のオープンが中止に。若手移住者が三浦のために奔走
一方、かつて三浦海岸の代表的な観光資源として知られた海水浴場は年々運営者の高齢化や担い手不足が進み、2024年の夏は、「海の家」の出店が無くなり海水浴場のオープンそのものが中止に。
そんな状況に危機感を覚えたのが、近年三浦海岸に移住してきた若手の移住者たち。三浦海岸エリアの新たなにぎわいづくりを目的に、30〜40代の若手移住者を中心とした『三浦海岸バルウォーク実行委員会』を結成しました。
本実行委員会は、海水浴場をオープンする代わりに、夕暮れの海岸をライトアップして彩るライティングイベント『うみあかり』や、三浦海岸エリアの飲食店をスタンプラリー形式でめぐる『バルウォーク』を企画。観光シーズンの観光客離れを食い止めることに貢献しました。
この動きを契機に三浦海岸では、長年地域で暮らし、地域のことをよく知る「地元のレジェンド」と若手移住者が新旧融合し、三浦海岸の新しい賑わいづくりがスタートします。
新旧まちづくり団体が連携した『三浦海岸ビールまつり』
まちの新しいにぎわいづくりを進めていくため、2024年9月、京急電鉄は、三浦海岸駅前に地域交流拠点を整備。さらに、三浦市と京急と地域住民が一体となってまちのにぎわいづくりについて考えるワークショップ『三浦海岸のうみとまちとえきをつなげていくカイギ』をスタートしました。

このワークショップは、2025年8月現在までに5回開催され、これまで、地域の有志らが三浦海岸エリアをどのように盛り上げていきたいかを、それぞれの立場から話し合いました。

その結果、「地元のレジェンド」の知見と、地域の新しい魅力を発見し、新鮮な発想で形にする若い世代のアイデアが融合。2025年5月のゴールデンウィーク期間、『まちなみ事業協議会』が長年主導してきた京急三浦海岸駅での『トラック市』と同時開催で、地元三浦半島のブルワリーを集めた『三浦海岸ビールまつり』を実施し、地域の飲食店の出店で多くの集客を実現しました。


移住者が担う、地域主導&持続可能なにぎわいづくり
今回の『三浦海岸ビールまつり』では『三浦海岸バルウォーク実行委員会』のメンバーを務めた若手移住者が飲食ブースを運営、同じく他地域から三崎港に『三浦ブルワリー』の小松さんがクラフトビール事業者の取りまとめを主導するなど、移住者が中心となってイベントを運営。
また、『三浦海岸バルウォーク実行委員会』のメンバーは、2025年夏に三浦海岸で開催される海水浴イベント、『MIURA FUN BEACH』でも、ビーチイベントの開催や飲食ブースの出店、三浦海岸エリアの飲食店を巡る『バルウォーク』企画でイベントに参画するなど、地域のにぎわい作りに大きく貢献しています。
『三浦海岸のうみとまちとえきをつなげていくカイギ』では引き続き、まちのさらなるにぎわいづくりや、駅前広場の利用アイデアを話し合っていく方針です。最終的には地域主導でにぎわいづくりの企画・運営が行える体制づくりを目指しています。
現在、『MIURA FUN BEACH』の開設と同時に、三浦海岸駅前の交流拠点をいつでも地域活動に活用できるひろば『線路下スペイス【UMICO】』としてオープンする取り組みが進行中。

長年、地域の観光施策を担ってきた地域住民の三浦海岸への思いや愛着は、三浦海岸に魅力を感じて新たに集った若い世代に受け継がれ、今後も新たなにぎわいを生み出していくでしょう。
キーパーソンの声
『三浦海岸のうみとまちとえきをつなげていくカイギ』『三浦海岸バルウォーク実行委員会』メンバー・『帆屋』店主/吉村さん
ーー三浦海岸に移住した経緯・現在のお仕事を教えてください。
私はもともと他県に住んでおり、三浦海岸に縁があったわけではないのですが、たまたま訪れた際、直感で気に入って移住することに決め、三浦海岸の駅前で飲食店を始めました。
初めは人脈もない中で不安もありましたが、お店を始めたことでたくさんの出会いが生まれ、今では三浦海岸に多くの友達、仲間ができたと感じています。
ーー三浦海岸のまちづくりへの関わり方を教えてください。
現在、三浦市と京急と地域住民が一体となってまちのにぎわいづくりについて考えるワークショップ『三浦海岸のうみとまちとえきをつなげていくカイギ』のメンバーとして、地元の皆さんや他の移住者の皆さんとともにまちづくりに参加しています。また、30〜40代の若手移住者を中心に結成された、『三浦海岸バルウォーク実行委員会』のメンバーとしても活動しています。

ーーまちづくりに参加する理由と、まちづくりの場で意識していることを教えてください。
他県から移住してきて、三浦海岸で商売をさせていただいている立場なので、自分ができることで「三浦海岸に貢献したい」「盛り上げたい」という思いが強くあります。
まちづくりの場では、積極的にいろいろなアイデアを発信し、みんなを巻き込んで動くことを意識していますね。『三浦海岸バルウォーク実行委員会』として参加した『ビールまつり』では、三浦海岸駅周辺の仲間を集めて短管で作ったビールカウンターを設置しました。
30歳のころ英語もわからないままカンボジアに移住し、サバイバル力とコミュニケーション力を鍛えた経験を三浦海岸のまちづくりに生かし、三浦に新しい風を吹かせたいと思っています。