2024.06.20

「屛風浦駅前の“ソト”を空想するカイギ」に参加してみたら、住民主体のまちづくりが見えた!

「自分たちが暮らすまちを盛り上げたい!」。そんな思いから、住民が主体となって動きだす事例が京急沿線で増えています。今回は、その場所で暮らす人ならではのミクロな視点でまちの課題を議論し、自らの手でまちを変えていく活動を始めた、京急線・屏風浦駅のコミュニティに密着。まちづくりの会議に参加し、コミュニティが生まれた経緯や活動内容のレポート、参加者が語るまちづくりへの思いを紹介します。

「屏風浦に地域交流の場を」。住民による、住民のためのまちづくり。

地域交流地点を設置することが決まった、京急線屏風浦駅。

閑静な住宅街に囲まれた、京急線屏風浦駅。周辺には小さなスーパーや医院がある以外、地元住民が通勤や通学に利用する通過点でしかなかったこの場所に、小さな空き地ができることになったのが2023年の秋のこと。もともと店舗だった駅前の古い建物を撤去後、「空いたスペースを地域の交流拠点として使いたい」という声が地元住民から上がりました。

この声をきっかけに、賛同した人々が集まり、やがて地元住民が中心となった小さなコミュニティが発足。地域の事業主やNPO法人、子育て世帯や大学教員、まちづくりの専門家、自治体の担当者など、多彩なスキルを持つ人々が集まって、生活者や専門家としてそれぞれの視点でまちの交流拠点について意見を交わす「屛風浦駅前の“ソト”を空想するカイギ会議」を定期的に開催してきました。

これまで行われた5回の会議では、空いた敷地をどのように利用するかが議論され、さまざまな案が出された中で、京急電鉄が平和島の交流拠点で使っていたトレーラー施設、「タイニーハウス」を提供できることになったことから「タイニーハウス」を活用するというアイデアが採用されました。2024年5月に開かれた会議では、地域交流拠点のデザインや「タイニーハウス」の運用方法、告知活動などについての話し合いが開かれ、屏風浦駅の隣、京急線上大岡駅付近の地域センターにおよそ20名のメンバーが集合しました。

多彩なメンバーが意見を交わす、まちづくり会議に密着。

地域住民の発案で始まった会議は、今回で6回目になる。

当日は、あいにくの雨にも関わらず、子育てに関わる活動をしている人や地元企業、個人事業主、学生、京急メンバー20人余りがケアプラザに集合。メンバーがそろうまでの時間、会議を通して顔見知りの仲になった人々が談笑を交わす様子が見られました。中には、小さなお子さん連れの女性も。みなさん、慣れた様子であやしています。

開始時刻の10時になり参加者がそろうと、初参加のメンバーのために自己紹介タイムがスタート。和やかな空気の中、さっそく最初の議題に進みます。

会議の様子①建築科学生が、地域交流地点のデザインを提案

この日最初の議題は、神奈川大学建築科学生らによる「タイニーハウス」の配置のプレゼンテーション。限られたスペースに長方形のタイニーハウスとテラスをどのように設置すべきか、学生たちが提案した4つのパターンを見ながらメンバーが議論を繰り広げました。

神奈川大学建築科の学生たちが「タイニーハウス」の配置案をプレゼンテーションした。

「テラスが道路に面している案は、子どもが道路に飛び出して危ないのでは?」
「A案の配置はただでさえ狭い駅前に圧迫感を与えそう」

など、子育て世代や地元で暮らす人ならではの意見が飛び出し、参加した学生にとっても、まちづくりを肌で体験する意義のある場になったようです。

会議の様子②「タイニーハウス」の運用・管理方法を議論

子育て世代や子育てコミュニティに関わる住民が多く参加した。

2つ目の議題は、「タイニーハウス」の運用方法です。ここでは、京急沿線のさまざまな地域でまちづくりに参加してきた京急電鉄メンバーから、「コミュニティマネージャー制度」導入の提案が。

コミュニティマネージャー制度とは、地域住民の中から「タイニーハウス」の管理・運営者を選出する方法のこと。京急沿線、金沢地区の地域交流拠点でも導入されており、住民自らが参加条件や管理の内容を話し合いながら臨機応変に運用しています。

屏風浦のまちづくりチームは、コミュニティマネージャー制度の導入についてメリット・デメリットを深掘りしながら、運用に参加しやすい仕組みや特典を引き続き探っていくとのこと。

すぐに全員が納得する結論を出せない議題も、一歩一歩次につなげていきます。

屏風浦まちづくりチームの中核メンバーに聞いた、「私が参加する理由」。

まちづくり会議は、屏風浦の隣町、上大岡の地域センターで開催された。

メンバーが集まるにつれ内容が濃くなっていくまちづくり会議。初回から参加している発足メンバーは、どのように感じているのでしょうか?会議終了後に、インタビューをしてみました。

美容室経営者・中島さん「まちの人々のホンネを吸い上げ、まちづくりに生かしたい」

「株式会社TRIPLE-ef」代表取締役の中島翔氏(左)。京急屏風浦駅周辺で美容室を展開している。

まちづくり会議の発足メンバーである中島さんは、屏風浦駅在住で、周辺エリアで複数の美容室を展開。経営者のネットワークを生かして、さまざまなバックボーンを持つメンバーを会議に引き入れ、まちづくりチームを育ててきたフロントマンでもあります。

そんな中島さんに、まちづくりに手を挙げた経緯を伺うと、こんな答えが返ってきました。

中島さん「美容室って、まちの人々の暮らしに密着しているんです。まちの人々のホンネを聞いてきた私だからこそ、地域のためにできることがあるのでは?と感じたんですよね。まちが良くなれば、事業にも還元されるし、暮らす人にもメリットがあると思っているんです」

さらに中島さんは、まちづくりの目標について、以下のように語ってくれました。

中島さん「地域の人々の交流が増えることで、挨拶が飛び交うまちにしたいですね。屏風浦がローカル地区ならではの『顔の見えるまち』になっていけば嬉しいです」

地域コミュニティ運営・池田さん「地域コミュニティを拡大し、3世代が交流するまちに」

ママクリエイターのコミュニティ「京急つながりmama」を運営する池田真美氏(中央)。

京急線上大岡駅に在住の池田さんは、ママクリエイターを集めてクリエイター同士の交流や物販を行う地域コミュニティを運営しながら、京急沿線子育てネットワーク「Weavee」のメンバーとしても活躍されています。

自らも地域コミュニティを運営する池田さんは、屏風浦のメンバーや会議の様子についてどのように感じているのでしょうか?

池田さん「とにかくメンバーが多様で、それぞれに才能やスキルを持った人が集まっているのが強みだと思います。会議でも、保育士さんやケアマネージャーの方、お母さんなど、さまざまな人が自分の得意分野を活かしながら発言しているし、そのアイデアが生きていますよね」

地域を横断してコミュニティ同士がつながれば、それぞれのまちがよりにぎわうはず、と考える池田さん。隣町である屏風浦のとのつながりを作り、小さなまちから、コミュニティ運営や作品販売の場づくりを広げていきたいと考えています。そんな池田さんが思い描く理想のまちについて伺いました。

池田さん「地域の多世代交流を目指したいですね。今のコミュニティは子育て層に偏りがちですが、シニア世代ともつながって、3世代で地域を盛り上げていけたら楽しそう。マルシェでお子さんがうちのアクセサリーを買って、おばあちゃんがアクセサリーをつけた子どもに『かわいいわね』と声をかける。そういう景色が見たいです」

【まとめ】住民の一歩が、まちを変える一歩になる。

会議ではこのほかにも、地域交流拠点のネーミングやオープニングイベントの内容などが議題にあがり、参加者がそれぞれの視点から思い思いに意見を交わす様子が見られました。

「まちづくり」というと、大きな力やお金が必要だと思われがちですが、人々がつながり、知恵を出し合えば、小さなことから一歩ずつ行動を起こせる。そんなことが感じられた会議でした。

本企画では今後も、自分たちのまちに夢や理想を描いて会議に参加する屏風浦の人々とその活動を追っていきたいと思います。