2025.02.17

三浦エリアに観光拠点を。漁師町の古民家を活用した分散型ホテルで、地域に新たな可能性を開く

「酒宿山田屋」の看板を掲げる古い商店
明治から続く万屋がやがて酒屋に。その二階を宿泊施設に改装した「酒宿山田屋」

発展途上のリゾート地にチャレンジングな事業者が集まり、観光地づくりを盛り上げる。日本各地でそんな事例が増えています。一方で、事業者のハードルとなるのが、事業の拠点となる場所や施設探し。その土地に魅力を感じていても、人脈やつてがないことで拠点探しが難航し、最初の一歩を踏み出せないというケースは少なくありません。

そんな課題に取り組むのが、京急沿線三浦エリアの事業者・団体と京急電鉄が連携する「三浦newcal」。エリアの遊休施設と事業者のマッチングや、三浦エリアで事業に挑戦したい人の拠点探しをサポートすることで、地域事業の創業や拡大を支援します。今回は、三崎市の遊休古民家と、宿泊施設という業態のマッチングをサポートし、三浦市の観光課題である「観光拠点の整備」と「滞在時間の延長」を実現した『三崎宿』の事例を紹介します。

​​三浦エリアに宿泊施設を。遊休施設とホテル事業をマッチング

豊かな自然環境と漁港を有し、魚介や露地野菜などの食に恵まれた三浦市。都内からおよそ1時間というアクセスの良さから、多くの観光客が訪れるリゾート地として知られています。

一方で、観光地として深刻な課題となっているのが、来訪者の滞在時間の短さ。「都心から近く、気軽に自然に触れられる」という、都会の観光客のニーズを満たす三浦市ですが、夜の観光コンテンツに乏しく、宿泊施設が整備されていないことから、来訪者のほとんどが日帰りです。三浦市が今後、観光地として発展していくには、夜間も楽しめる観光コンテンツや、滞在拠点となる宿泊施設が必要でした。

黒いポロシャツを着て談笑する男性
ポロシャツを着て着席する男性
プロジェクトを牽引したミウラトラスト株式会社の鈴木雄二さん(上)と中川康太さん(下)。三崎の魅力を感じ、ファンになってもらえる宿泊施設を目指しているのだそう。

この課題を受けて、地域で不動産事業を展開する地元企業が『ミウラトラスト株式会社』を設立。「三浦newcal」は、三浦市と共に『ミウラトラスト株式会社』の地域連携やビジネスモデルの構築を支援し、歴史的建造物の活用実績がある『地域経済活性化支援機構 REVIC』と横浜銀行が資金面での支援を実施。5者の連携により、2024年、古民家ホテル『三崎宿』をオープンしています。

若者や外国人の滞在拠点に。新たな層に三浦の魅力届ける

『三崎宿』のコンセプトは、「港町に新たな宿場を」。三浦半島に江戸時代から残る古民家、古商家のたたずまいを生かし、エリア内の飲食店事業者とも連携して、地域に溶け込んだ分散型ホテルを目指しています。2022年4月、「江戸の蔵宿」「酒宿山田屋」「古民家の旅宿」の3施設をオープン。2025年現在は、「本陣」「葉山商店」「入船」の全6館11室を展開しています。

古民家を改装したホテルの外観
築後、弐百数十年。三崎でいちばん古い建物と言われている「江戸の蔵宿」

『三崎宿』の運営に関わるREVICによると、オープン後の利用状況は好調で、想定していたよりも20代の若者のグループ利用が多いとのこと。若者のエリア滞在時間の拡大に貢献しています。また、港町の風情あふれる古民家というスタイルが、昨今の昭和レトロブームともマッチし、観光客が足を運び、訪れたくなるコンテンツとしての魅力になっています。

このほか、訪日外国人をターゲットに、その土地の食べ物や食文化を体験する「ガストロノミーツアー」の宿泊拠点に使われるなど、日本古来の住宅施設の珍しさから、これまで三浦半島に訪れなかった外国人観光客も増えているそうです。

宿泊滞在者の満足度が、三浦エリアのさらなる充実に

三浦エリアでは近年、宿泊施設や新たな観光コンテンツが続々と生まれ、これまで以上に滞在社者の体験価値を上げる動きが高まっています。『三崎宿』のオープンは、こうした流れを盛り上げる一助にもなっています。

その一例が、神奈川県がスタートした、「地域まるごとホテル@三浦半島」。宿泊施設と周辺の観光施設が連携して、食事やアクティビティで滞在者をもてなす施策です。

また、三浦エリアを拠点とする京急電鉄も、「三浦newcal」の取組みのひとつとして『三崎宿』周辺にエリアの回遊に利用できるシェアモビリティを設置。三崎をまわる観光客に人気の「みさきまぐろきっぷ」や、エリア内で2日間利用可能な「三浦半島まるごときっぷ」を宿泊者向けにPRできないか検討しています。

みさきまぐろきっぷのロゴマーク
京急電鉄は、三浦エリアを宿泊滞在する観光客向けに、2日間利用できる「三浦半島まるごときっぷ」をアピールし、エリアを盛り上げていく https://www.keikyu.co.jp/visit/otoku/marugoto/

今後、三浦エリアの観光拠点が整備され、コンテンツが充実していけば、観光客の滞在時間の延長につながります。また、観光産業のポテンシャルが高まれば、エリア内で挑戦したい人が増え、スモールビジネスの増加が期待できるでしょう。

夜間やオフシーズンのコンテンツ不足、「三浦newcal」の取り組みに期待

豊かな観光資源を持ち、新たな客層の取り込みが見込める三浦エリアは、現在進行形で発展途上と言えます。

具体的な課題のひとつが、夜の観光コンテンツの整備。宿泊滞在者の満足度を上げるには、夜に出かけられるお店やアクティビティなど、三崎ならではのコンテンツの充実が不可欠です。また、朝食を提供できる場所が少ないことも、観光地として大きな課題と言えるでしょう。

さらに、観光オフシーズンである秋冬の集客や、羽田に向かう訪日外国人の立ち寄りニーズを獲得するインバウンド施策も検討が必要です。

「三浦newcal」は今後、このような地域の課題を事業者同士で共有し議論するとともに、事業者同士のマッチングやエリア外の企業とのマッチングを通して、三浦エリアにさらなるアイデアやスモールビジネスを生み出していく役割が期待されています。