2025.06.23

大田区の魅力をトランジット旅客やインバウンド旅客にアピール。京急電鉄が地域と目指すインバウンドの将来像とは?

フラワーアートの工房を見学する外国人たち
フラワーアート集団「dodotokyo」のアトリエに訪れるトランジット旅客やインバウンド旅客。

近年、羽田空港へのトランジット旅客やインバウンド旅客が増加傾向にあります。一方で、羽田空港を有する大田区では、こうした外国人の観光需要をうまく取り込めておらず、近隣地域のトランジット旅客、インバウンド旅客の来訪にはつながっていないのが現状です。

こうした課題を受け、羽田空港を有する大田区に沿線を持つ京急電鉄は、地域事業者と手を組んで新たな取り組みをスタート。

大田区エリアや川崎・品川エリアの魅力的な地域コンテンツを観光パッケージ化し、トランジット旅客や京急沿線を経由するインバウンド旅客に向けて、羽田空港発着の時間帯別ショートトリップを作成しているとのこと。2024年度にテストトリップを実施しました。

今回は、本取り組みの背景やコースの内容、テストコースの結果を踏まえた今後の課題について紹介します。

大田区の魅力伝えたい。トランジット旅客やインバウンド旅客の誘引が課題

大田区エリアは、町工場など伝統ある日本の技術に触れられる地域であるほか、商店街などの下町文化、芸者のカルチャーやアート、臨海部の豊かな自然、寺社仏閣や旧東海道などの歴史ある街並みなど、ディープな魅力にあふれています。また、蒲田エリアの餃子などグルメも魅力です。

一方で、こうした魅力的なスポットは現状では外国人に認知されておらず、トランジット旅客の観光動機につながっていないほか、インバウンド旅客も旅の発着点として通り過ぎてしまうことが多いのが課題です。羽田空港へ入国後浅草や渋谷など有名観光地へ向かってしまうひとが多いことが挙げられます。

そこで、大田区エリアを沿線とする京急電鉄は、大田区のエリアマネジメントで連携する地域事業者とともに、外国人旅行者向けの観光プランの造成をスタートしました。株式会社道道(dodotokyo)、穴守稲荷神社、大井海岸 芸者置屋まつ乃家、ART FACTORY城南島など、ユニークなサービスや商品、歴史あるスポットを体験できるスポットをパッケージ化し、羽田空港発着の時間帯別ショートトリップとして展開。2024年から、テストコースの運用を開始しています。

モデルコースは、トランジット旅客が飛行機に乗るまでの待機時間や、インバウンド旅客が目的地に向かうまでのスキマ時間や羽田空港出入国前後の数時間で回遊できるよう、時間別に作成。ターゲットであるトランジット旅客やインバウンド旅客が短時間で大田区の魅力を体験できるように構成しています。
トランジット旅客やインバウンド旅客は、これまで羽田空港内にて時間を過ごすことも多かったことから京急沿線へ少し足を運んでもらうことが狙いです。
ここでのポイントは、決して浅草や渋谷、富士山・京都といった有名観光に優ろうとはしていない点。大田区ならではの立地特性を活かし、観光誘致をする点が独自性として挙げられるでしょう。

京急と地域事業者と連携し、2つのテストコースを作成

本事業で京急電鉄は、アート活動を行う企業や、商店街の飲食店、日本唯一の女形芸者置屋など個性豊かな地域事業者と連携。いずれもインバウンドに関心の高い事業者を集めたほか、大田区の地域資源やコンテンツ、地域事業者の活動方針を生かす形で、コースを作成することにこだわったといいます。

【実際に作成したモデルコースの内容】

①大田区でアートを体験するコース

工房でフラワーアート制作に興じる外国人たち
平和島に拠点を構えるフラワーアート集団「dodotokyo」のアトリエでクラフトに挑戦。

所要時間:6時間
内容:大田市場、フラワーアーティスト集団「dodotokyo」アトリエでのアート制作体験、城南島アートファクトリー、JAL工場見学 SKY MUSEUM

②夜の大田区で日本文化に触れるコース

屋形船で芸者のショーを楽しむ外国人観光客
東京湾を巡航する屋形船では、日本で唯一の女形芸妓「まつ乃家」の栄太朗氏によるショーを楽しんだ。

所要時間:4時間
内容:穴守稲荷神社参拝、屋形船での東京湾巡航、船上での芸者体験、お台場の夜景を船上から鑑賞

外国人のニーズをとらえたコースづくりと告知が課題に

作成された2つのモデルコースは、2024年10月〜11月の間でそれぞれ2回、外国人旅行者を対象にテストツアーとして実施し、現場や参加者からのフィードバックを受けて、現在調整を行っているとのこと。
具体的には、以下の2つの課題に取り組んでいるといいます。

①企画面での課題
当初、日本らしさを意識したコンテンツを重点的に取り入れていたものの、実際に運用してみると、日本らしさだけでは参加者の満足度を上げられなかったそう。各体験のコンテンツのストーリー性や、他のエリアでは体験できないプレミアム感を地域一体でいかに生み出せるかがコース改良の肝となる一方、外国人旅行者のニーズとのバランスも必要です。また、ターゲットが求めるコンテンツを持つ事業者とどのようにつながり、コースに反映させていくかも検討する必要があるとのこと。現在、改良の視点として、少人数高付加価値ツアーや地域を回遊できるツアーなどがあがっているそうです。

②告知面での課題
本施策の認知を上げるには、旅行者が旅行前に下調べを行う“旅マエ”の期間に、いかに情報アプローチを行うかが重要です。商品単体ではなく、地域一体で大田区内の魅力を発信していくことが認知向上の近道になるとし、今後は地域を巻き込んだプロモーションを計画していくとのことです。また、旅行代理店との協業のもと、海外への沿線の魅力発信も強化していきます。

インバウンドを盛り上げて、地域経済の活性化に

ART FACTORY城南島の建物を背に記念撮影を楽しむ外国人観光客
倉庫を改修してできたアートギャラリー「ART FACTORY 城南島」は、その風情ある建物もトランジット旅客、インバウンド旅客に人気。

京急電鉄によると、本施策での目標の第1段階は、トランジット旅客やインバウンド旅客が目的地や飛行機出発までの数時間で京急沿線地域に立ち寄ってもらい、エリアの魅力を体験してもらうこと。第2段階は、エリアの観光需要が高まることで地域経済の好循環につなげることだといいます。

また、最終的には大田区のみならず、京急沿線全体が地域事業者と一体となってインバウンド旅客の受け入れ態勢を整えていくことをゴールとしており、次段階として、横浜や三浦半島方面への施策拡大も見据えているとのことです。