2024.05.09
アートによる“まち”の再生 桜並木が有名な大岡川と、赤い電車がトレードマークの京急線高架下を生かした黄金町のまちづくり
黄金町のあゆみ ~アートによるまちの再生~
赤レンガ倉庫や横浜中華街など、人気の観光スポットが集まる横浜市中区。黄金町は、その中区に所在する街のひとつで、桜の名所として知られる大岡川沿いに位置しています。町内には大岡川に並行して京急電鉄が走り、横浜駅から2駅隣が日ノ出町駅、3駅隣が黄金町駅と、便利なエリアとして成長を遂げています。近年は、駅の近くにマンションやホテルが建ち並び、子育て中のファミリーや観光客を多く見かける街になりました。また、「黄金町バザール」と呼ばれるアートフェスもおこなわれ、流行に敏感な若者たちからもひそかに注目を集めています。
そんなアートに触れられるまちとして人気が高まっている黄金町ですが、実は、戦後の混乱にもまれたディープな歴史を抱えるまちでもあります。この記事では、黄金町の歴史と今の様子、そしてアートの力を使ってまちの再生に取り組む活動についてご紹介します。
黄金町の歴史
黄金町は、戦前、大岡川を活用した河川舟運によって問屋街として栄えていました。しかし、1923年の関東大震災、1945年の横浜大空襲の被害を相次いで受け、終戦後にはバラック小屋がずらりと並ぶ暗黒街へと姿を変えていきました。日ノ出町や黄金町あたりの大岡川沿岸のバラック群は、麻薬や拳銃の密売の温床「大岡川スラム」と呼ばれ、湘南電気鉄道(現在の京急電鉄)の高架下や高架沿いには売買春を違法におこなう小規模店舗が多数建ち並ぶ、関東屈指の風俗街となったのです。地元住民からも「近づいてはいけない危ない場所」と認識され、健全な店舗や地域住民の転出が後を絶たず、生活環境がどんどん悪化していきました。
しかし、2003年、治安の悪さに頭を悩ませていた地域の人たちが立ち上がります。現在の「Kogane-X(初黄・日ノ出町環境浄化推進協議会)」の前身「風俗拡大防止協議会」が結成され、行政・警察・大学等も巻き込むかたちで、安全・安心のまちづくりを進めていく体制が整っていきました。
さらに、2009年の横浜開港150周年という節目に向けて街のイメージアップをしようと、神奈川県警による「バイバイ作戦」がはじまります。2005年1月、機動隊の大型車両で乗りつけた多数の警察官が地区内へ突入し、違法風俗店舗の一斉摘発がおこなわれました。
その後、県警は近くの町内会館や京急高架下に設置した「歓楽街総合対策現地指揮本部」から監視をつづけ、2005年8月までに違法風俗店舗を全店閉店させることに成功したのです。
アートの力をつかってまちを再生
戦後の混乱にもまれ、暗く重い歴史を抱えることとなった黄金町。2005年に違法風俗店舗を一掃して以降、街の暗いイメージを払拭すべく、地域住民・小学校PTA・警察・行政・大学・企業・アーティスト・NPOなどが連携し、地域をあげて「安心・安全のまちづくり」に取り組んできました。その活動のひとつが、「アートによるまちづくり」です。
2008年、京急電鉄と横浜市の協力により高架下に文化芸術スタジオが建設され、アートを生かした新しいまちづくりを目指して「黄金町バザール2008」を開催。その後、継続的かつ総合的にまちづくりを推進するため、「特定非営利活動法人黄金町エリアマネジメントセンター」が設立されました。黄金町エリアマネジメントセンターでは、黄金町バザールの開催をはじめ、毎月第2日曜日にはオープンスタジオというイベントもおこなわれ、アーティストと地域の人たちとの交流を促進し、日常的な賑わいを創出しています。
黄金町バザール
2008年から毎年秋に開催されている「黄金町バザール」も、現在の黄金町を語るうえで欠かせないイベントのひとつです。これは横浜市中区黄金町エリアでアートによる街の再生に取り組む「NPO法人黄金町エリアマネジメントセンター」主催のアートフェスティバルで、国内外のアーティスト・キュレーターを招聘し、アートによって街のイメージを変えようと活動しています。
2023年の黄金町バザールのコンセプトは、「アーティスト・ネットワーク」と「誰も知らないアーティスト」。東アジア・東南アジアの6都市と日本の東北エリア、そして黄金町で活動しているアーティストら、総勢22組が参加し、作品を展示しました。「街」という日常を舞台に繰り広げられる若手クリエイターの制作と作品展示が、黄金町に新しい風を吹き込んでいます。
【参考】
https://koganecho.net/project/koganecho-bazaar
https://koganecho.net/kian-2023/
暗黒街からアートの街に ~黄金町の「これから」~
黄金町エリアマネジメントセンターでは、国内・海外のアーティストやクリエイターに⾼架下スタジオや周辺の⼩規模スタジオを貸し出し、滞在や制作発表を支援する、日本最大級のアーティスト・イン・レジデンス事業を⾏っています。同センター事務局長の山野さんは「今後は黄金町とアジア圏のアーティストのネットワークを作り、黄金町から発信していきたい。世界を旅して優れたアーティストを探し、黄金町に来てもらいたいね。」と目を輝かせていました。
また、京急電鉄は2018年にYADOKARI株式会社との連携のもと、日ノ出町~黄金町駅間の高架下に、タイニーハウスを活用したホステル、カフェラウンジ、水上アクティビティー拠点から構成される複合施設「Tinys Yokohama Hinodecho(タイニーズ横浜日ノ出町)」を開業しました(現在は閉館)。2020年にはクラフトジンの蒸溜所や地元飲食店が入居するコミュニティー型フードホール「日ノ出町フードホール」を開業し、人々が黄金町エリアへ訪れるきっかけや賑わいづくりの一端を担っています。
見慣れた空間を異空間へと変化させたり、街の新たな魅了を引き出したりすることができるアートの力を使って街を再生しようと取り組んできた黄金町には、この街をより良くしたいと考える地元住民の力と、それに共感する行政や団体、企業の力、そして芸術家によるアートの力が存在し、その力がバランス良く作用し合いながら、日々の暮らしや賑わいを支えてきました。
現在では、高架下や大岡川沿岸に、老若男女問わず集えるアトリエやアートギャラリー、カフェ、雑貨店、文化施設などが立ち並び、近隣の子どもたちの遊ぶ姿も日常的に見られます。アートが街に当たり前に存在するこの街で育った子どもたちのつくる20年後の日ノ出町の未来に、期待が膨らみます。