2024.03.14

地域主導のまちづくり実証で、”本当に必要なまちづくり”を。大田区・平和島で得られた効果とは?

大田区の地域交流拠点で開催された「移動式子ども食堂実証実験」の様子。

地域主導のまちづくり、「タクティカル・アーバニズム」とは?

地域の学生と大田区が連携し、まちの人が集まるイベントを企画・開催した産学連携イベント。

近年、米国で広がりを見せている新しい都市開発の形、「タクティカル・アーバニズム(TACTICAL URBANISM)」をご存じでしょうか?

タクティカル・アーバニズムとは、米国の建築デザイン事務所によって広められた都市計画の手法で、日本語では「戦術的都市計画」と訳されます。その最大の特徴は、地域事業者や地域の住民などの当事者が自らプロジェクトを起こして仮説検証を繰り返し、まちのニーズをすくい上げていく点にあります。その土地で働く人、暮らす人の視点で「本当に必要なまちづくり」を実現できるタクティカル・アーバニズムは今、日本でも注目を集め始めています。

2022年8月、東京都大田区の平和島駅前に設置された地域交流拠点「平和島駅前地域交流拠点」は、地元大田区の事業者、地域住民によるまちづくりの実証の場として活用されており、タクティカル・アーバニズムの先導的な例と言えるでしょう。本記事では、これまで「平和島駅前」で行われてきた実証実験と、その検証結果から得られた成果について紹介します。

「平和島駅前地域交流拠点」を活用した実証実験の4つの効果

イベントや常設施設の設置を試験的に行い、地域のニーズを確認する場として活用されている「平和島駅前地域交流拠点」。

「平和島駅前地域交流拠点」は、京急平和島駅周辺エリアに2026年に完成予定である駅前複合施設の敷地一部を暫定的に利用した地域交流拠点。これまでに、地元大田区の事業者や団体、地域住民や学生らが自らの活動を披露するイベントやマルシェなどを行うほか、地域の交流拠点としてシェアモビリティの有用性の確認やレンタルスペースの需要の確認など、まちづくりに向けた実証の場として活用をしてきました。こうした地域交流拠点の運用からは、下記4つの効果が認められています。

①自然発生的な賑わいの創出


地域事業者や団体、住民の方による産学連携イベントや親子向けのワークショップ、コンサートの開催など、まちの人々の交流拠点として活用され、地元の方たち自らが積極的にまちづくりに活用する姿が見られました。また、こうした活用をきっかけに、事業者や住民同士がさらなる交流を生む中核地点となり、ひろばを超えたまち全体への賑わいを自然発生的に生み出しました。


②地域課題やニーズの吸い上げ


「平和島駅前地域交流拠点」に設置されたシェアサイクルポートは、およそ130ポートほどある大田区内のポートの中でもトップクラスの利用者数を記録していることがわかっています。このことから、平和島駅からJR方面への接続ニーズの高さや大田区臨海部方面への通勤手段としての需要、周辺公園へのアクセス手段としてのニーズの高さが想定されるなど、地域住民の移動課題の顕在化に役立ち、交通結節点として駅を強化する必要があるとわかりました。このように、イベントや試験的に設置した設備から、これまで見えていなかった地域課題や具体的なニーズを吸い上げることに成功しています。
また、拠点で実施された「移動式子ども食堂」では子育て世代の方にアンケートを実施し、子育て世代の方の生の声を吸い上げ、子育て施策にも活かす活動も行っています。

平和島駅前ドコモ・バイクシェアポート
平和島駅前シェアEVスクーターポート

③地域情報ハブの有用性の実証


地域情報掲示板「まちのおしらせ」には、地域の住民や団体、学生などから地域情報が多数寄せられ、駅前の地域情報ハブの有用性が確認できています。2024年3月時点で5件の掲出待ちが発生しています。今後、平和島駅前周辺でのまちづくりにおいても、こうした情報発信・共有の場のニーズが予想されるでしょう。

平和島駅前に設置された「まちのおしらせ」ボード
無料で発信したい情報を掲出できる

④利用状況に基づくサービス形態の修正


こうした実証実験の場は、住民にとっての「必要性」を検証する場としても有効です。「平和島駅前地域交流拠点」内に設置されたレンタルスペース「タイニーハウス」は設置当初、リモートワークやオンライン会議の場としてのシェアオフィス機能での活用が想定されていましたが、実際に運用するとシェアオフィスとして利用よりも、地域の住民の方のちょっとした集いや飲食をしながら談笑するレンタルスペースとしての利用が多いということが分かりました。その場所で働く人、暮らす人にとって何が必要なのか、何が必要でないのか、こうした検証が行い、まちに賑わいをもたらすツールを地域特性・サービスの利用状況に応じて変化させていくのも、「本当に必要なまちづくり」の重要な要素と言えます。

平和島駅前地域交流拠点に設置されたレンタルスペース「タイニーハウス」。
ワーキングスペースとしての利用よりも住民の集いの場としての活用が目立った。
「タイニーハウス」の内部はシンプルながらも洗練された空間である

実証実験を繰り返し、まちを進化させるまちづくり。

こうした実証実験の結果は今後の駅前開発の貴重なヒントとなることが認められており、当初2023年8月までの設置予定だった「平和島駅前地域交流拠点」は2024年4月末までの設置延長となりました。
開発後の駅前に関しては、シェアモビリティポートのニーズ確認による「シェアモビリティポートの設置検討」や、交流拠点の有用性確認による「地域住民の交流スペースの設置検討」、地域情報ハブの有用性確認による「情報掲示板設置検討」などが進められており、今後は延長期間中の実証実験結果も含めて平和島駅周辺へのまちづくりに生かすことが検討されています。

また、大田区では今後、リアルな実験の場だけでなく、デジタルツールの活用による地域の声の吸い上げを推進し、住民の意見を取り入れながら住民とともに平和島を共創していくこともわかっています。

最近では、大田区と京急電鉄は、鉄道会社の沿線まちづくり案件では全国初導入のデジタルアンケート手法「ホンネPOST」を活用した新たなまちづくりの施策検討をスタート。
若者や子育て世代などを中心に、地域住民の方が日常で感じている「平和島の住みやすいところ・住みにくいところ」といった”平和島のまち”に対する生の声を吸い上げ,まちに必要な機能や課題の把握、今後のまちづくり人材の発掘につなげています。
平和島について感じる「今後はリアルな実験の場だけでなく、デジタルツールも活用しながら地域の生の声を吸い上げ、住民とともに平和島を共創していくことがわかっています。

地域事業者や地域住民にとって、「本当に必要なまちづくり」を実現するタクティカル・アーバニズムは、これまで主流だった​​「まちの価値を維持するためのエリアマネジメント」から、「まちの価値を最大限に引き上げる、先導的なエリアマネジメントへ」と、日本のまちづくりのあり方を変えていきます。

平和島はまさにその先行事例。今後ますます注目されるタクティカル・アーバニズムにいち早く取り組んだ地域として、人々がより働きやすく、より暮らしやすいまちに進化していくでしょう。

今後も平和島から目が離せないのは間違いない