2024.03.14
平和島に「移動式子ども食堂」が登場。実証実験を通して子育て世代の声をまちづくりに活かす
地域交流拠点で、「移動式子ども食堂」を開催
京急沿線地域では、少子高齢化や人口減少の加速に備え、「子育てしやすいまちづくり」への取り組みが加速しています。
子育て世帯が多く暮らす大田区平和島では、2023年5月20日(土)21日(日)、6月22日(木)27日(金)、7月22日(土)23日(日)の6日間、京急線平和島駅隣接の地域交流拠点、「平和島駅前地域交流拠点」で、「移動式子ども食堂」を開催。当日は、利用者にアンケートも行い、「移動式子ども食堂」のニーズや、平和島で暮らす子育て世代の方が感じているまちの課題やまちに必要な機能の意見・要望を吸い上げました。
今回は、本取り組みを京急電鉄と共催した「NPO法人あいだ」の狙いや活動内容を紹介するとともに、アンケート結果を踏まえた平和島の子育て世代のニーズについて考察します。
「移動式子ども食堂」の狙いとは?主催者の思い
「子ども食堂」と聞くと、一般的には常設型の飲食店を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
今回「平和島駅前地域交流拠点」で開催された「移動式子ども食堂 あい♡だいな〜」は、商業キッチンカーに営業を委託し、埼玉県熊谷エリアを中心とする各地を移動しながら、プロの料理人が作ったおいしい料理と、子どもたちへの「お客様体験」を提供するという革新的な取り組み。「NPO法人あいだ」が日本で初めて取り組みを行い、2022年度には、京急沿線の横浜市金沢区で京急電鉄と共催で実施した回が、「一般社団法人日本子育て制度機構のベスト育児制度賞」を受賞しています。
「あい♡だいな〜」の発起人でもあり、「NPO法人あいだ」の副代表・奥野大地さんは本取り組みを始めた理由について、以下のように語っています。
「通常の子ども食堂は、運営のハードルが高く、訪れる人も限定的です。キッチンカーであれば、運営と調理、開催地での旗振り役を分業しやすく、料理はプロに任せてわれわれは地域の利用者と向き合うことができる。食事のついでに困っていることを気軽に話せる場所があれば、相談事のハードルが下がりますよね」(奥野さん)
「助けを求める人を待つのではなく、私たちの方から困っている人の元に駆けつけられる点が、移動式ならではのメリットだと感じています。また、体験の機会が乏しい子どもたちに、プロがつくった美味しい料理やさまざまな体験を用意できるのも、分業システムならでは。『平和島駅前地域交流拠点』で行った実証実験でも、マジック体験教室や子ども写真教室を開催して子どもがさまざまな分野のプロと触れ合う機会を作らせてもらいました」(奥野さん)
「あい♡だいな〜」では、妊娠中の女性と中学生以下の子どもに無料で食事を提供し、高校生以上の利用者は1食600円を支払うことで、無償分の食事代を寄付できるとのこと。
「貧困をなくすには、困っている人を減らすよりも助ける人を増やす方が効率がいい。だから、『昨日困っていたけれど今日は困っていない』という人も、気軽に“助ける側”に回れる仕組みを作りたいと思いました」(奥野さん)
奥野さんの想いに賛同し、大田区エリアの現場を主導している池津和子さんは、平和島での実証実験において、「継続的な取り組みが必要」と話します。「平和島においては(無料になる)子どもさんの食事分だけを注文していく方が多い印象でしたが、その裏側に貧困のような困りごとが隠れているのか、単なる地域性なのかは、この取り組みを継続しないとわかりません」(池津さん)
「ただ、アンケートでは自分も地域活動に参加したいという子育て世代の声がとても多く、『あい♡だいな〜』の取り組みを続けていくことで、“助ける側”も拡大しつつ、地域の子育て世代が関わりあう場が自然発生していければいいなと思いますね」(池津さん)
◼️平和島での実証の結果、アンケートで分かった「まちの意識」
今回の実証実験において「NPO法人あいだ」は「平和島駅前地域交流拠点」の運営サイドと連携し、「移動式子ども食堂」の利用者の方に向けたアンケート調査を実施したとのこと。
アンケート結果によると、「住まいの周辺環境として重要だと考えていることはどのようなことか」という質問に対して、最も票が集まったのが「子どもが安全に遊べる場所がある」という項目。続く、2番目に票が集まったのが「子どもと一緒に出かけるレジャー施設や商業施設がある」、3番目が「交通の利便性がよい」という項目でした。
この質問に対し、続く「大田区の魅力」を問う質問で利用者が回答したのは、「自然豊かな公園が多い」や「都心や羽田空港、横浜などへのアクセスが良い」といった項目で、回答者にとって大田区は、「子どもを遊ばせる場所が多く、交通環境も良い暮らしやすいまち」と考えられていることが推察できます。
また、「地域活動への興味関心」を問う質問では、回答者の56%と半数以上の人が「地域活動に興味がある」と回答。手芸や料理、ダンスなど、自身が貢献できるスキルが具体的に挙げられ、回答者である子育て世代の地域活動への関心の高さが見えてきました。
このほか、「まちに必要な機能」についての質問には、「ファミレス」や「ドラッグストア」といった暮らしの利便性に直結するテナントのほか、「イベントスペースなどの地域交流拠点」を挙げる声も多くみられました。こうした声からは、移動式子ども食堂をはじめとする地域活動が平和島エリアの子育て世代に根付き、まちにおいてさまざまな活動の場として賑わいや地域の価値を高める地域交流拠点の必要性が認知されてきたことが伺えます。
【平和島駅周辺での地域主導のまちづくりに関する記事はこちら】
自治体や地域事業者が住民の意見を取り入れ、地域交流拠点を活用しながら「子育てしやすいまちづくり」に向けたコミュニティの形成を先導する。平和島でのこうした取り組みは今後、子育て世代の多い沿線地域のモデルケースとなっていくのかもしれません。