2025.01.29
一人ひとりが三浦半島地域の海について理解を深める「ブルーカーボン Update meeting」を実施
神奈川県が推進する神奈川県版脱炭素モデル地域ブルーカーボン推進事業の一環として、三浦半島地域のエリアマネジメント活動を行う「三浦newcal」では、2024年12月2日に「~三浦半島地域の海の今を知り、未来を語ろう!~ ブルーカーボン Update meeting」を開催しました。
当日は約60名が参加し、三浦半島地域の資源である海の環境課題について考え、理解を深めるプログラムに取り組みました。その模様をリポートします。

神奈川県に在住・在学の幅広い世代が参加
12月2日、会場となったヴェルクよこすか(横須賀市立勤労福祉会館)には、平日の夜にも関わらず、多くの参加者が集まりました。
三浦半島地域の漁業関係者、商工会の会員、一般企業に勤める社会人、高校生のほか、行政・教育関係者など、職業も年齢もさまざま。ブルーカーボンについてある程度の知識を持っている人、「今回初めて知った」という人が一堂に会し、学びの場を共有しました。


プログラムは二部構成。第一部は「三浦半島地域の海の今を知り、未来を語ろう! ブルーカーボンとは?」についての講演会、第二部は参加者がグループに分かれて、講演内容を受けて、「ブルーカーボンに関する活動が活発になるために、もっと私たちにできること」をテーマに、意見交換するワークショップを行いました。
三浦半島地域の海を磯焼けから守るための取り組みとは
17時にUpdate meetingが幕を開けました。まずは本日の趣旨を説明したのち、本編の講演会がスタート。鹿島建設株式会社 技術研究所 上席研究員の山木克則さんが話をしてくれました。
山木さんは、鹿島建設が葉山町に設置している葉山水域環境実験場で沿岸環境を調査している水産学博士で、葉山アマモ協議会(※注1)のメンバーでもあります。三浦半島の海を知り尽くしていて、2024年11月に開催した「親子で参加!ブルーカーボン体験ツアー」でも講師を務めてくれた方です。今回の講演会の模様は、インターネットでもLIVE配信されました。
※注1:葉山の漁師、湘南漁業協同組合葉山支所、地域ダイビングショップ、小学校、鹿島建設などで構成されている組織。葉山の藻場の保全活動などを行っています。



山木さんはまず三浦半島の海の現状について解説。かつて相模湾には良質な藻場があり、たくさんの魚が集まっていましたが、数年前から「磯焼け」という現象が起こり、海から海藻が消えるという深刻な事態に陥っています。原因の一つが地球の温暖化です。黒潮の大蛇行によって海水の温度が年々上昇し、結果、海の中の生態系が乱れ、藻場が育たなくなっているのです。
現在、その対策として、山木さんたちは地元の漁師やダイバーと協力し、藻場に海藻を増やす活動を行っています。海藻は成長すると二酸化炭素(CO2)を吸収し、海底に炭素を貯蓄します。この炭素こそが「ブルーカーボン」と呼ばれる重要な資源なのです。
2024年、国土交通省は藻場がもたらす温室効果ガス吸収量を世界で初めて国連に報告しました。その量は年間約35万トン(2022年)で、日本の一般家庭の約14万世帯分にも相当します。
ブルーカーボン創出の取り組みは、今や全国で行われています。なかでも三浦半島の4市1町(横須賀市、鎌倉市、逗子市、三浦市、葉山町)は特に力を入れていて、横須賀市や葉山町ではJブルークレジット(※注2)の認証を取得。育てたブルーカーボンを企業に購入してもらうことで、その費用をさらなる藻場の再生に役立てています。企業側もJブルークレジットを購入することで、自社で排出せざるを得ないCO2を相殺することができ、社会貢献につなげています。
※注2:ブルーカーボンのCO2吸収量を貨幣に換算したもの


山木さんは三浦半島の海の現状、ブルーカーボンへの取り組みを説明したのち、以下のように話し、第二部につなげてくれました。
「ブルーカーボンを創出することで、豊かな海を取り戻すだけではなく、さらに行政と企業が連動して地域経済が円滑に回る仕組みも作れたらといいなと個人的には思っています。そうしたアイデアを(第二部の)ワークショップで話し合ってみてください」。
その後質疑応答が設けられ、三浦市の漁業関係者からは「我々も諸磯湾の藻場でカジメを育てていますが、正直あまりうまくいっていません。どうしたらよいでしょうか?」や、Jブルークレジットを実際に購入しているという一般企業の会社員からは「もし今以上の予算があったら、どんな活動をしたいですか?」といった声が寄せられ、山木さんが一つずつ丁寧に回答し、第一部は終了しました。

第二部はワークショップ。参加者自身が自分にできることを考える
10分間の休憩を挟んだのち、第二部のワークショップに移行。A~Lの12グループに分かれ、「ブルーカーボン」をテーマにブレーンストリーミング方式のグループワークを行いました。ブレーンストリーミングとは、グループや個人でアイデアを自由に出し合い、創造的な解決策や新しい発想を生み出す手法です。
第二部の進行役を務めたのが、ワークショップ ファシリテーターの河村 甚さん。株式会社チームビルディングジャパンの代表取締役で、日本におけるミーティング&チームビルディングファシリテーターの第一人者です。今回のワークショップを仕切ってくれました。

さらに株式会社DMC沖縄の客員研究員である岩村俊平さんが、ワークショップ サステナビリティ専門員として参加。キャリアコンサルタント、技術士(建設・水産)、潜水士として活躍していて、ブルーカーボンやSDGsの専門家でもあります。各グループを巡回してディスカッションをサポートしてくれました。

最初に行ったのが、お互いを知るためのアイスブレイク。参加者のほとんどはこの日が初対面のため、緊張せずにディスカッションができるよう、本名ではなく、ニックネームを名乗って自己紹介をしました。

こうして親睦を深め、場が和んだところでいよいよ本題に取り組んでいきます。各テーブルには大きな模造紙や付箋、マジックなどの文房具、さらにはお菓子を用意。第一部の講演を聞いて、それぞれが感想や気付き、ブルーカーボンについて自分ができることなど、思い付いたことを自由に付箋に書いていきます。
「藻場の消失によって人にどんな影響が出るのか?」、「海洋系の生態が変わるとどんな問題が起こるのか?」、「磯焼けで魚介類が育たなくなると地球が困る」など、自由な意見が次々に出てきました。

個別のシンキングタイムが終わると、10分間のグループワークに突入。各々が順番に付箋を模造紙に貼り付け、自分の意見を述べ、それに対して全員でディスカッションをしていきました。その際に注意するのは、他人の意見に対して批判や評価を言わないこと。自分の考えとは違っても多様性を受け入れることで、斬新なアイデアが生まれる環境が整うのです。

各テーブルで討論が繰り広げられ、ものの数分で真っ白だった模造紙が付箋でいっぱいになり、1回目のグループワークは終了。ここで一旦アイデアの中間共有を行いました。各テーブルを巡回していた岩村さんが、興味を引いたグループを指名し、中間発表をしてもらいました。選ばれたのはDグループ。
「ブルーカーボンをさらに推進するためには、もっとビジネスの視点で考えなくてはいけないということを話し合いました。そのためには企業だけではなく、地域コミュニティも巻き込んで、少しずつ加速させていくほうが効果的ではないかという意見でまとまりました」と代表者が発表。
ブルーカーボンがビジネスにつながるよう、積極的な討論ができていた点を岩村さんが高く評価しました。

白熱した議論ののち、グループの意見を最終的にまとめる
中間発表が終わり、続けて2回目のグループワーク(10分間)がスタート。1回目の話し合いから生まれたアイデアの共有についてテーマを深掘りし、グループワークを醸成させていきます。さらに議論を重ねることで、参加者のブルーカーボンへの理解度もいっそう深めることに成功しました。

グループワークはこの2回で終了。その後、グループ別に最終結果をまとめ、参加者全員で内容を共有しました。いくつかのグループの発表を紹介します。
「我々のグループは、地方自治体の職員や会社員、個人事業主など、さまざまなメンバーがいて、講演を聞いてどんな気付きがあったのか、どのように行動に移せばよいのかなどを話し合いました。具体的には、ここ最近の磯焼けの進行がとても速いことや、魚が減少したことで価値が年々上がっていて、これまで当たり前だったものが今後も存在し続けるとは限らないという危機感を抱きました。こうした問題を解決するためには、まず自分たちがもっと知ろうとする努力をしなればいけないという意見で一致しました。また、行動することもすごく重要で、節電やゴミの削減、カーボンフットプリント(※注3)が少ない製品を選ぶなど、日頃から意識することも確認し合いました」(Eグループ)。
※注3:日常生活の中で排出される温室効果ガスの量を二酸化炭素(CO2)に換算して表すこと。

「グループワークを通じて、自分たちは何ができるのかを話し合えて、有意義な時間が過ごせました。私はこれまで環境問題に対して無知でしたが、今回ブルーカーボンについて理解を深めていく中で、自分自身ができることはないかと考えるようになりました。実は私はお笑い芸人でして、ブルーカーボンや藻場を題材にしたリズムネタを作って、子どもたちにもわかりやすく普及できたらいいなと思っています」(Fグループ)

また、大人に混ざり、湘南学院高校(横須賀市)のサイエンス(特進理数)コースの1年生11人も参加してくれました。マイクを向けられた生徒からは「ブルーカーボンという言葉自体をまったく知らなかったので、よい経験をさせてもらいました」、「グループワークに初めて参加しましたが、自分とは違う考えの方の話を聞けて勉強になりました」といった発言が寄せられました。

参加者からは「自分事として考えられるようになった」との声が
グループ別の結果発表をもって、ワークショップは終了。全員で記念撮影をし、一部・二部合わせて約2時間30分にも及んだ「ブルーカーボン Update meeting」は閉幕ました。終了後、参加者に感想を聞きました。

三浦市在住のヨット乗りである大堀さんは、「私を含め、三浦半島を拠点としているヨット乗りの中でも、三浦の海が年々悪くなっていることを知らない者がたくさんいます。それではいけないと思い、今回参加しました。講演やグループワークを通じて、三浦半島に限らず、地球全体の海を守っていくために、一人ひとりが自分事として危機感を持って、海の保全活動に取り組んでいかなければいけない」と語ってくれました。
みうら漁業協同組合員で、諸磯の藻場の保全活動も行っている本間さんは、「高校生と同じグループになり、意見交換をしましたが『近年、漁業者が減少して困っているそうですね』と声を掛けられて、高校生がそんなことまで知っているのかと驚きました。私自身、地元の小学生に海の大切さについて話をする機会があるのですが、藻場や磯焼けといった言葉が若い世代の人たちにもっと浸透し、身近に感じてもらえるよう、大人がしっかり伝えていくのが使命だと思いました」。

横須賀市出身のお笑いコンビ・セットアップのユウキさんとビッグボーイさんは「僕らはブルーカーボンについてまだまだ知らないことが多かったですが、専門知識を持った方々とお話ができて、すごく勉強になりました。グループワークでは『ブルーカーボンを継続して啓蒙していくためにはどうしたらいいか?』というテーマを議論しましたが、僕たちがお笑いのネタにすることで、役に立てるのではないかと思いました」と、すでにいくつかのネタが出来上がっていて、今後は“ブルーカーボン芸人”としても活動していきたいと意欲を見せていました。

湘南学院高校の生徒からは「ブルーカーボンは単なるCO2削減だけでなく、その先にある生態系にも大きな影響を与えることがわかり、勉強になりました」(小森さん)。「講演を聞いて、ブルーカーボンだけはでなく、グリーンカーボンやホワイトカーボンというものがあることも知れて、日常生活の中で自分たちが取り組めることがたくさんあるのではないかと考えさせられました」(大井さん)。「事前に自分なりにブルーカーボンについて調べてきましたが、その解釈が実は間違っていたことを専門家の方々のご意見を聞いてわかりました。正しい知識が得られてよかったです」(木下さん)などの声が上がりました。

他の参加者からも、地球問題に対して「自分事として考えることの大事さを学べた」などの感想が多く寄せられました。一人ひとりが出来ることは限られているかもしれませんが、その活動の輪が広がれば、いずれは大きな力になります。今回の「ブルーカーボン Update meeting」はそれを学ぶよい機会になったと思います。
参加者のみなさん、長時間お疲れさまでした!
なお、当日の山木さんの講演のアーカイブ動画は、YouTubeから視聴することができます。
興味のある方はぜひご覧いただき、三浦半島の海を含めた環境課題について考えてみてください。
ブルーカーボン Update meeting のダイジェスト動画をYouTubeで配信しています!