2024.03.14

三富染物店 三冨由貴さん

今回ご紹介するのは、江戸時代から続く伝統技法で大漁旗や飾り旗を染め上げる三富染物店。7代目店主で染物職人歴20年の三冨由貴さんにお話をお聞きしました。

三富染物店7代目の三冨由貴さん

―三富染物店の事業内容をお聞かせください。

大漁旗、飾り旗をはじめ、のれん、幕、のぼり、手ぬぐいなど、染物を作っています。大漁旗は、航海安全と大漁を祈願して、新しい船を造るときに贈るもの。飾り旗は、結婚や子どもの誕生、初節句、還暦・古希、開店祝いなどのお祝い事に贈るもの。ご希望に合わせてデザインし、一品一品、下絵から染色まですべて手作業でやっています。また、観光客や地元の子どもたちを対象に、染付体験もしています。

鮮やかに染め上げられた大漁旗

―7代目とのことですが、いつから事業を始められたのですか?

一応、天保4年(1833年)創業ということになっていますが、実際は徳川家光の時代くらいまで遡るようです。天保4年から数えると、私で7代目。江戸時代に戦の場で使われた、家紋の入ったのぼりを作っていたのがはじまりです。そこから、神社ののぼりやお店ののれん、垂れ幕などを作るようになりました。大漁旗を作り始めたのは、大正の終わりから昭和のはじめにかけて。技法は江戸時代から変わりません。かつては同業者もいましたが、今ではうちが神奈川県で唯一で、全国的にも後継者がいなくて廃業するケースが多くなっています。

「中学のときの美術の成績は2でした」

―子どもの頃から染物職人になると決めていらっしゃったのですか?

いいえ、なりたくないと思っていましたね(笑)。絵が下手だったんです。中学のときの美術の成績は、10段階で2。自分の腕の絵を描くというテストがあって、練習もして真剣に臨んだのに、先生から「真面目にやれ」と言われて。どんどん嫌いになっていきました。気持ちが変わったのは、大学生のとき。何もないところから旗を作り上げていく過程や、お客さんに笑顔で「ありがとうございました」と感謝される姿を見て、自分もやってみたいと思うようになりました。先代で今も現役の父親からは、「やらなくてもいいけど、やるならしっかりやれ」と言われましたね。20代で家業を継ぐと決めてから染物の修行を始めたのですが、ものになるまでに15年はかかりました。

―染物の過程を教えてください。

染物は、筆で下絵を描くところから始めます。次に、白く残る縁を描いていきます。この作業を「糊置(のりおき)」といいます。餅米と糠(ぬか)を混ぜた糊を絞り器に入れ、絞り出しながら下絵をなぞっていくんですが、これが見た目よりも難しいんですよ。一度乾かした後に、色を付けていきます。染料だけでは日に焼けてしまうので、染料と顔料を混ぜています。同じ色でも微妙な違いがあって、色によって仕入れ先を替えているんですよ。

真剣な表情で、肝となる糊置の作業に集中する三冨さん
鮮やかな色で染付していきます

―染付体験ではどんなことができるのですか?

体験のためのお膳立てしたメニューではなくて、実際の工程の一部(染付)をやってもらっています。個人の観光客の方のほか、修学旅行の体験学習でやってもらうケースもあり、なかにはクラス旗を作った学校も。人数が多い場合は、マホロバマインズやうらりなど近隣の施設に出張してやることもあります。また、地元の中学校や横浜市内の小学校などで出張体験講座をやることもあります。

染付に使う筆。細いものから太いものまでさまざま

本業がお忙しいなか、染付体験に力を入れるのはなぜですか?

染物って、なんとなく敷居の高いイメージがあるじゃないですか。それを払拭したくて。身近なものに感じてもらいたい、染物の楽しさや良さを知ってほしい、こんな仕事があることを子どもたちに知ってほしいという思いから、染付体験をしています。染付体験について書いた作文がコンクールで賞をもらったという話を親御さんから聞いたときは、心に残るものがあったんだなとうれしく思いましたね。観光客の方がふらりと立ち寄って染付体験をしたり、ちょっとしたおみやげを買えたりする場にしたいと思って、店舗も改装しました。

季節に応じて糠の量を変え、糊の粘度を調節する

―三浦半島の観光について課題に感じていることはありますか?

せっかく三崎に来ても、ご飯を食べて帰っちゃう人が多いんですよね。短い滞在時間をいかに延ばすかが課題。うちがやっている染付体験のようなアクティビティの存在を知ってもらえれば、観光にもっと広がりが出ると思うんです。体験といっても、特別なもの、盛りだくさんなものである必要はありません。例えば、農業体験なら農家が日常的にやっている作業をやってもらったらいい。むしろ、そういう「日常体験」こそが求められ、昨今のスタンダードになりつつあります。マグロの冷凍庫に入る体験とか、面白そうじゃないですか?

「新しい共創が生まれるのを楽しみにしています」

―三浦newcalと一緒にやりたいことはありますか?

これからは共創の時代。個々で何かをやる時代は終わったと思っているので、三浦newcalとしてつながり合う関係性はとてもいいと感じています。ここから新しいコラボレーションが生まれて、三浦のいろんな楽しみ方を提案できるといいなと。そうすれば観光客を飽きさせることなく、また三浦に来よう、次は三浦で何をしよう…とリピーターの増加にもつながるんじゃないでしょうか。

※このインタビューは2021年12月に行われたものです。


―三富染物店が提供するアクティビティはこちら!

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