2024.12.26
何もなかった駅前に広がるにぎわい。屏風浦駅前交流拠点「屏風浦つながるステーションB」の成果と、今後の目標【第3回/全3回】
2024年8月14日、京急線屏風浦駅前にオープンした、地域交流拠点「屏風浦つながるステーションB」。本連載ではこれまで、地域交流拠点の設置を目指して発足した、上大岡・屏風浦駅の周辺住民による「屏風浦駅前のソトを空想するカイギ」(以下、屏風浦カイギ)の取り組みに密着してきました。
第1回の記事では、地域交流拠点のデザインや運営方法を決める「屏風浦カイギ」をレポート。第2回の記事では地域交流拠点が「屏風浦つながるステーションB」(以下、本文では「つなB」と表記)としてオープンするまでの道のりや、チームごとに役割分担しながら準備を進めたメンバーの取り組みについて紹介しています。
連載最終回となる第3回の今回は、屏風浦駅前にオープンした地域交流拠点の、その後をレポート。地域交流拠点が地域に生み出したにぎわいや、拠点の運営を牽引する「コミュニティマネージャー」が果たした役割、今後の地域交流拠点の活用や、目標を追いました。
「屏風浦つながるステーションB」が駅前に生み出した小さなにぎわい。
2024年11月24日。屏風浦駅前の地域交流拠点、「つなB」では、朝晩に分けて2つのイベントが開催されました。
日中に行われたのは、地域の子どもたちが「こども店長」となってお祭りの企画、販売を行った「こども店長 ミニまつり」。当日は、事前告知で知って参加した親子連れの参加はもちろん、駅を利用する住民が通りがかりに立ち寄っていくことも多く、予想以上の盛り上がりを見せました。
また、夜は屏風浦小学校の4年生が課外学習としてプロジェクションマッピングを上映。子どもたちが事前にアプリで描いた絵を、屏風浦駅建物の白い壁に投影し、アニメーションに。生演奏をつけて集まった地域の人とともに鑑賞しました。また、上映後に用意した、屏風浦駅の駅長と記念撮影ができるプログラムは子どもたちに大盛況。
当日の屏風浦駅前は、これまでに見たことのないほどのにぎわいを見せ、多くの交流が生まれる様子がありました。
コミュニティマネージャーを中心に広がる、「わたしたちのまちづくり」。
本イベントの企画から、当日の運営までを主導したのが、屏風浦カイギのメンバーが自主的に立候補して就任した「コミュニティマネージャー」です。メンバーが参加するLINEのオープンチャットでは、コミュニティマネージャーが中心となって出されたイベント案を煮詰め、決定したイベントごとに個別のオープンチャットを立ち上げ。チャット内やオンライン会議で地域住民とやりとりして準備を進めてきたのだそう。
中でも、子どもが小さい子育て世代のメンバーは、子どもが寝た後の22時ごろからオンライン会議を開くなど、意欲的に参加していたとのこと。コミュニティマネージャーと住民たちの自主的な働きにより、屏風浦会議でファシリテーター役を果たしていた京急電鉄メンバーも知らないうちに、イベントが形になっていきました。
こうしたプロセスは、イベント当日だけでなく、イベントの企画・運営を通しても、コミュニティを育み、住民たちが自ら自分たちのまちのにぎわいのために連携する機会になっています。
また、プロジェクションマッピングの取り組みは、屏風浦小学校の臨時職員でもある若林さんや、「つなB」のデザインに関わった神奈川大学建築学部建築学科の上野先生、屏風浦で美容院を経営し、屛風浦カイギのメンバーである中島さんら、コミュニティマネージャー同士の連携によって実現した好事例に。
コミュニティマネージャーたちの活躍によって、「つなB」の活用が広がり、駅前の盛り上がりと地域の交流が生まれていることがわかります。
地域住民の“生の声”ヒントに、まちづくりの実証実験の場として活用。
「つなB」は今後、イベントによるにぎわい創出だけでなく、まちづくりの実証実験の場としても活用されることが期待されています。そこでヒントになるのが「ホンネPOST」に寄せられた投入された地域住民の生の声です。
「ホンネPOST」とは、地域住民のホンネの声を収集するための、デジタルアンケートツール。まちに必要な機能や課題の把握、今後のまちづくり人材の発掘につなげるために京急沿線全体のまちづくりで活用されています。
屏風浦エリアでも、駅構内や京急ストア内で一定期間(2024年10月21日~2025年3月16日)「ホンネPOST」のポスターを設置。QRコードから地域住民まちの人の声を収集し、「つなB」を使って住民からニーズがある施設や店舗を試験的に設置。まちづくりの最初の一歩として活用してもらえるのだそう。
これまで届いたアンケートの中には、「駅前にパティスリーがほしい」「もっといろいろなお店でにぎわってほしい」といった意見も。事業者側にとっても、新しい施設や店舗のオープンを検討する際、「つなB」を使って、実験的に運営することができれば、地域のニーズを知ることができ、常設展開がスムーズになりそうです。
一方、「今の屛風浦の満足度」に対するアンケートでは、現状に「満足」と答えた回答者が全体のわずか10%という結果に。ホンネPOSTを活用して住民の声を吸い上げ、より地域のニーズに応えていくことが今後の課題と言えそうです。
また、「『つなB』の運営に参加してみたい」という声も届いており、「ホンネPOST」の設置が新たなコミュニティマネージャーの仲間を広げることも期待できます。
運営体制を強化して、屏風浦エリア全体のにぎわいの発信地にしたい。
「つなB」では現在、コミュニティマネージャーの企画以外にも、地域の事業者の出店や、小学生主催のイベントなどが行われるようになり、少しずつ地域での認知が広がりつつあります。
また、コミュニティマネージャーの発案で、月1回の「清掃デー」も始まるなど、駅前エリアの環境改善にも取り組み始めています。
今後の運営に向けて、大きな課題は下記の4つ。
①コミュニティマネージャーの増員
・子育て世代や、地域の小中学生から、シニア層まで、多様な世代のコミュニティマネージャーに参加してもらうことで、発信力を強化する。
・イベントや施設の運営に携わる人を増やし、地域交流拠点の運営を通して未来のまちづくり人材を育む。
②持続可能な運営システム
・掃除や設備管理の負担がコミュニティマネージャーに偏らない、持続可能な運営システムを導入する。
自治体との連携
・横浜市の補助事業の活用を検討するなどし、「つなB」の設備や運営を強化する。
③駅前のにぎわい創出
・地域事業者の実証実験の場として「つなB」を活用してもらい、駅周辺の店舗展開を後押しする。
④隣駅、上大岡への展開
・「つなB」の経験を生かし、今後再開発の可能性がある屏風浦の隣駅、上大岡駅でも地域住民らが主体となって地域交流拠点を展開する。
「つなB」が生み出したにぎわいが、さらなる地域の交流やまちのにぎわいにつながるよう、コミュニティマネージャーが中心となり、京急電鉄とともに実現に向けて取り組んでいくということです。
地域住民が自ら舵をとり、屏風浦カイギの立ち上げからメンバー集め、地域交流拠点の設置、運営までを行った「つなB」の事例は、今後も京急沿線のエリアマネジメントの大きなヒントになりそうです。