2025.01.24

神奈川県版脱炭素モデル地域の取り組みとして「親子で参加!ブルーカーボン体験ツアー」を開催!

神奈川県が推進する神奈川県版脱炭素モデル地域ブルーカーボン推進事業の一環として、三浦半島地域のエリアマネジメント活動を行う「三浦newcal」では2024年11月、2日間に渡り「親子で参加!ブルーカーボン体験ツアー」を開催しました。

三浦半島地域の海について、さまざまな体験プログラムを通して親子で学ぶことで、「海の豊かさを取り戻し」「温暖化対策」と「生物多様性の保全」に繋げる活動としての「ブルーカーボン」(※注1)を認知してもらい、 個人個人が自分事として何ができるかを考えるきっかけ作りとなることを目的としたイベントです。

今回は第1回の11月10日のツアーの模様をレポートします!

※注1:海に生えるアマモや海藻が二酸化炭素(CO2)を吸収し、海底に蓄積される炭素(C)のこと

11月10日開催ツアー参加者のみなさん

貸切列車で葉山マリーナへGO!

今回の体験ツアーは、事前に神奈川県内に在住・在学の子どもと保護者を対象に参加者を募集。当日は約30組の親子が参加しました。

参加者は京急川崎駅に集合し、イベント限定の貸切列車に乗車。逗子・葉山駅に移動し、会場となる葉山マリーナに向かい、同所でブルーカーボンについての講義、クルーザーに乗船しての藻場見学、サザエの稚貝放流体験など、さまざまなプログラムを行いました。

ツアー1回目の11月10日の朝7時45分。集合場所の京急川崎駅改札前に続々と姿を現した参加者。小学生から中学生まで、幅広い学年の子どもたちがたくさん来てくれました。「おはようございます!」という元気な挨拶が飛び交い、みなさん、出発前からテンションが高め。これから始まる未知なる体験に心を躍らせ、受付を済ませた親子から順に、ツアー専用の貸切列車に乗車していきました。

京急川崎駅で受付をする参加者。これから始まるツアーにワクワク♪
スタッフの誘導で貸切列車に乗車

車内の指定されたシートに座り、しばし発車を待つ間、早速一部の参加者に話を聞きました。「今回のイベントは何で知りましたか?」。「京急線の車内の中吊り広告です。息子が京急ファンで貸切列車に乗れるということで応募しました。これをきっかけに環境問題にも興味を持ってくれればと思っています」と平本さん親子。「貸切列車が楽しみ。ブルーカーボンについては、まだ何も知らないので勉強したいです」と息子さんも出発が待ち遠しい様子でした。

車内の様子。広告スペースには魚たちが泳ぐ海中のイラストが
「京急の電車が大好き!」という子どもも多く、貸切列車に大興奮

8時20分、参加者を乗せた貸切列車・1000形「Le Ciel(ル・シエル)」が京急川崎駅1番線を発車。列車は本線に移動するため、一旦品川方面へと走り出し、多摩川の鉄橋付近で一時停止。そこから本線に入り、逗子・葉山駅を目指しました。

大師線ホームから本線に直接入換し、逗子線へ入線するのは珍しいこと

車内では体験ツアーについての説明があり、しばし車窓からの眺めを楽しんだのち、ブルーカーボンクイズの時間に。「CO2(二酸化炭素)の排出量が一番少ない乗り物は? ①自動車 ②飛行機 ③バス ④電車(京急)」(正解は④)など、ブルーカーボンについて学べるクイズが5問出され、親子で考えなから答えを予想しました。答えが発表されるごとに「やったあ、正解した!」「ああ、間違えちゃった」など、子どもたちが一喜一憂し、大いに盛り上がりました。

ブルーカーボンクイズの様子
「海のワカメは何色? お味噌汁のワカメは緑だけど海は違うのかな?」など親子で考える

車内で楽しい時間を過ごしていると、あっという間に逗子・葉山駅に。そこから貸切バスに乗り換えて葉山マリーナに向かいました。

磯焼けから海を守ろう! ブルーカーボンの大切さを特別講師が解説

貸切バスに揺られること十数分、9時30分に目的地の葉山マリーナに到着。しばしの休憩を挟んだのち、10時からブルーカーボンにまつわるプログラムがいよいよスタートしました。

まずはブルーカーボンへの取り組みや海洋環境についての講義。鹿島建設株式会社 技術研究所の上席研究員で水産学博士でもある山木克則さんが話をしてくれました。

「建設会社がなぜ海の生態の話を?」と疑問を持つ人もいると思いますが、実は密接な関係があります。海沿いや海上・海底に建築物を造る際、その周辺の生態系を破壊しないよう、注意しないといけないからです。鹿島建設は葉山に水域環境を調査する技術研究所を設置していて、山木さんは日々、葉山の海を調査しています。また、葉山アマモ協議会(※注2)のメンバーでもあり、藻場の再生活動にも取り組んでいます。

※注2:葉山の漁師、湘南漁業協同組合葉山支所、地域ダイビングショップ、小学校、鹿島建設などで構成されている組織。葉山の藻場の保全活動などを行っています。

そんな山木さんが、温暖化によって生態系の異常が起こっている葉山の海の現状、ブルーカーボンの重要性、実際の取り組みなどについて解説してくれました。

なかでも印象的だったのが「海藻は海のヒーローなんですよ」という説明。海藻が生い茂る藻場には多くの魚が集まりますが、葉山の海では5年ほど前から藻場が消える「磯焼け」という現象が起こり、魚の数も激減しています。その対策として、現在、葉山アマモ協議会では、海藻を増やす活動を行っています。海藻は成長する際に海中の二酸化炭素を吸収し、海底に炭素を貯蓄します。この炭素がブルーカーボンと呼ばれるもので、温暖化対策として世界各国で取り組みが行われています。海藻をヒーローに見立てることで、子どもにもわかりやすく伝わったようで「海藻・藻場への理解が深まった」という声が多く聞かれました。

鹿島建設株式会社 技術研究所の山木さん

続いて、葉山で唯一の女性漁師である長久保 晶さんにバトンタッチ。「みなさん、おはようございます! 晶って呼んでください。さん付けは禁止ですよ!」とフレンドリーに語りかけ、子どもたちとの距離を縮めました。そこから葉山の海で獲れる魚の種類や漁法、漁獲量が年々減少していることなどについて説明。長久保さん自身も山木さんと連携し、海に潜って藻場の生態を乱すガンガゼ(ウニの一種)の駆除など藻場の保全活動に取り組んでいて、さらに生態系を悪化させる一因である「乱獲」にも触れ、漁師ならではの目線で海の大切さを熱く語ってくれました。

漁師の長久保さん
講義に耳を傾ける参加者

メモを取りながら、お2人の話を熱心に聞いていたのが下原さん親子。「学校でマイクロプラスチックについて学習して、海の環境問題に興味を持ちました。ブルーカーボンのことを知れてよかったです」と声を弾ませていました。

メモを見せてくれる下原さん親子

海の生物との触れ合い体験やクルーザー乗船で子どもたちは大興奮!

50分間の講義のあとは、二手のグループに分かれ、海の生物に触れる体験と、クルーザーに乗船し、藻場の見学とサザエの稚貝放流体験を入れ代わりで行いました。

海の生物に触れる体験(30分程度)には、ネコザメ、真ダコ、イセエビ、ヒトデ、ウニなど、葉山に生息する6~7種の海の生物が泳ぐ水槽を用意。初めて見る生物も多く、恐る恐る手を伸ばす子どもたちでしたが、すぐに慣れて時間ギリギリまで触れ合いを楽しみました。「ネコザメがザラザラしていて気持ちいい!」や「タコの吸盤が吸い付いてきてビックリした!」など、子どもたちは大興奮でした。

海の生物に触れる子どもたち
真ダコの吸盤の強さにビックリ!

クルーザーに乗船するために移動した船着き場では、まず海洋浮遊ゴミ回収機「SEABIN(シービン)」の見学をしました。マイクロプラスチックをはじめ、海洋浮遊ゴミは近年深刻な問題になっています。その対策として開発されたのが「SEABIN」です。船着き場の海洋浮遊ゴミが滞留する場所に設置すると、ゴミを吸い寄せて回収することができます。葉山マリーナでは、2021年よりヘンリーハンセンとセイコーウォッチの協力で「SEABIN」を設置。葉山の海をきれいにする活動を行っています。質疑応答の時間も設けられ、「1日にどのくらいのゴミが取れるんですか?」。「1日当たり平均1.5㎏です。それ以上のゴミが毎日海に捨てられているんですよ。困ったものですね」など、寄せられた質問にスタッフが丁寧に答え、プラスチックの海洋ゴミ問題の深刻さについて理解を深めました。

葉山マリーナに設置されている「SEABIN」
葉山マリーナ内のヘンリーハンセンオーシャン・松下店長が説明

そして、いよいよプログラムの目玉であるクルーザーに乗船。あいにくの曇り空ではありましたが、波は穏やかでまずまずのコンディション。葉山マリーナを出航したクルーザーは波飛沫を上げながら颯爽と進んでいきます。途中、裕次郎灯台の名で親しまれている葉山灯台、沖合い700mに浮かぶ森戸神社(森戸大明神)の名島(菜島)などを横目にし、ものの数分で葉山アマモ協議会がブルーカーボンに取り組んでいる藻場の真上に到着しました。

ブルーカーボンに取り組んでいる藻場の真上に停泊し、海底の様子を観察。水中ドローンを海底5~8mまで沈めていきます。磯焼けをしていたポイントに、山木さんや長久保さんたちが育てたワカメやカジメなどを移植し、藻場の再生を行っています。モニターには海藻の様子が映し出され、「小さなお魚さんもいっぱいいる!」と藻場の周囲を気持ちよさそうに泳ぐ魚の姿に、子どもたちから歓声が上がりました。

葉山マリーナが誇る、ベイクルーズ葉山Ⅱ
救命胴衣を着用して乗船
葉山マリーナを出航して藻場を目指す
船上から眺める景色に釘付けに

「海藻が一番成長するのは6~7月で、今(11月)は1年で一番少ない時期ですが、カジメが映っています。カジメは1年中生えていて、寿命は5年ほど。魚は石鯛や黒鯛、アイゴなどが見られますね」と、同乗した山木さんが解説。普段見ることがない藻場の様子に、子どもはもちろん、大人も釘付けになっていました。

水深200mまで潜行可能な水中ドローン
海底の岩礁に生えているカジメ
水中ドローンの映像に見入る参加者

その後は、「楽しみ!」と言っていた子どもも多かったサザエの稚貝を放流。手渡された稚貝は、山木さんや長久保さんたちが人工で育てたものです。直径2~3㎝ほどの大きさで、「小さくてかわいい。この赤ちゃん貝が藻場で成長して大きなサザエになるんだね」と初めて見る稚貝に興味津々。「大きく育つんだよ~!」と、声を掛けながら子どもたちが海に投げ入れました。葉山は昔からサザエ漁が盛んで、おいしいサザエが味わえることでも有名です。この日蒔いた稚貝が立派に成長することを願い、クルーザーは葉山マリーナに帰航しました。

人工飼料で育てられたサザエの稚貝
「大きくなりますように」と気持ちを込めて放流
帰航後はクルーザーの前で記念撮影

今後も「ブルーカーボンの理解を深めたい」という声が続々

葉山マリーナに戻ると時刻は13時で、プログラムはこれにて終了。今回のツアーに関するアンケートに答えてもらい、書き終えた人から現地解散となりました。参加者の感想を一部紹介します。

「全部おもしろかったけど、特にサザエの赤ちゃんを蒔くのが楽しかったです」と島村さん親子。「ブルーカーボンについて深く知ることができました。子どもにはまだちょっと難しかったですが、講義の内容をメモしたので家に帰った後も親子で学びを続けたいと思います」。

島村さん親子

「すごく楽しかったです。海の生物との触れ合いは最初怖かったけど、だんだん慣れていきました。特にネコザメがかわいかったです」。「大人にとってもすごく勉強になりました。娘も興味を持ってくれたので、今後も親子でブルーカーボンについて話をしていこうと思います。このようなイベントがあれば、ぜひまた参加したいです」と乙黒さん親子は話してくれました。

乙黒さん親子

子どもはもちろん、保護者からも「学びを得られた」という声を多数いただき、大好評で幕を閉じた「親子で参加!ブルーカーボン体験ツアー」。今回のイベントを通じて、ブルーカーボンについて少しでも理解を深め、親子で地球環境を守るためにできることを考えるキッカケにしてもらえればと願っています。

今後も引き続き、みなさんとともに地球環境について考え、さまざまな活動に取り組んでいきます。

11月17日開催ツアー参加者のみなさん①
11月17日開催ツアー参加者のみなさん②