2026.10.13
海の家が消えた砂浜を、展示空間に。「駅→まち→海」でつなぐ三浦海岸のパブリックスペース活用

いま、全国の海水浴場から賑わいが消えつつあります。公益社団法人日本観光振興協会が2026年6月末〜7月上旬に発表したデータによると、1993年代初頭のピーク時期には1,379カ所だった海水浴場は、2025年には969カ所に。ピーク時から約30%も減少しています。その背景にあるのは、海水浴客の減少や自然環境・気候の変化のほか、運営面・人手不足の課題も。
かつて夏になると海水浴客でにぎわった三浦海岸もまた、地域の高齢化などを背景に海の家が開設されず、2年前の2024年、海開きができない状況に陥りました。そんな三浦海岸の海水浴場を復活させようと、移住者らが中心となって始めたのが、まち歩きや海での展示イベントです。2024年のこの取り組みを前進とし、2025年には三浦海岸のまち全体と砂浜を舞台にしたアートの取り組み「三浦海岸アートフェスティバル」が開催され、海開きが復活。
駅からまち、そして海へと続く動線そのものを展示空間に見立てながら、海の家が消えた広い砂浜を「アートの展示空間」としてとらえ直し、海水浴シーズンの三浦半島を盛り上げました。
そんなアートフェスティバルが、2026年の夏に再び開催。本記事では、仕掛け人である新城宏明さんとともにアートフェスティバル真っ只中の三浦のまちを散策し、イベントを企画した背景や、三浦への思い、今後についてインタビュー。本アートフェスティバル開催の経緯を追いながら、移住者が担い手となって公共空間の使い方を組み替えていくプロセスと、それを一過性のイベントで終わらせないための課題を読み解きます。
海の家とともに失われた、砂浜の「担い手」
かつて夏になると、多くの海水浴客でにぎわっていた三浦海岸。海岸沿いには海の家が立ち並び、夏の風物詩となっていました。海の家は、飲食や更衣の場を提供するだけでなく、砂浜という公共空間を日常的に使い、人が滞在できる状態を保つ主体でもありました。
しかし、地域の高齢化などを背景に海の家がなくなり、2023年には海開きができない状況に陥ります。失われたのは施設だけではありません。砂浜を使いこなす担い手が、同時にいなくなりました。海水浴客を呼び込むだけでなく、担い手が不在となった「夏の三浦海岸」をどう使い続けていくかが、地域の課題となっていました。

この課題に対して、地域の外から来た担い手として動き出したのが、2020年に三浦へ移住した新城さんです。新城さんは建築家であり、三浦海岸沿いで営業する、コワーキングカフェ「BAYSIDE SHARE」のオーナー。
そこで生まれたつながりを生かし、三浦の夏を盛り上げるため、「三浦海岸アートフェスティバル」の実行委員会を設立。新城さんを含む中心メンバー3名に加え、三浦市役所、地域住民らと連携しながらアートフェスティバルを運営しています。運営資金は、国、県、市の補助金を元に企業の協賛金や地域サポーターの寄付によってまかない、アーティスト制作費・会場設営・広報・次回開催の運営費などに活用。地縁組織とは別の回路でつくられた人のネットワークが、そのまま企画の推進力になっています。また、京急電鉄も、実行委員会に参加して新城さんらの活動をサポート。京急三浦海岸駅前の「線路下スペイスUMICO」を展示場所として提供したほか、「三浦海岸アートフェスティバル」の情報発信を行いました。
「駅→まち→海」を一本の動線に。まち全体を展示空間に見立てる
「三浦海岸アートフェスティバル」は、海水浴客が海岸でアート作品を楽しめるイベントです。しかし、会場は砂浜だけではありません。砂浜をメイン会場としながら、三浦海岸駅から海へ向かう道筋にも作品を分散して設置しています。一か所に人を集めるのではなく、駅からの徒歩移動そのものを体験に変える、ウォーカブルな空間をつくり、回遊性の向上を目指しました。

新城さん:駅を出て、住宅地を歩き、空き家を活用したギャラリーを訪れ、さらに砂浜へ。三浦海岸というまちそのものが展示空間になっており、「駅→まち→海」という流れでアートを楽しめる構成にすることで、まち全体を使って「三浦海岸の夏」を盛り上げるのが狙いでした。
メイン会場となる海水浴場では、海の家がなくなった砂浜に、3m四方に組まれた単管パイプのフレームの中にアートを展示する「アートキューブ」を設置。フレームに切り取られた砂浜や夏の海を背景にアートを撮影したり、フレームの中に入って作品を間近で鑑賞したりと、さまざまな楽しみ方ができます。恒久的な建築ではなく、季節ごとに設置と撤去を繰り返す仮設の構築物によって、広い砂浜に人が留まる理由をつくり出しています。
作品を設置するための海水浴場の占用許可は、三浦市が神奈川県より取得。イベントの安全管理においては、海水浴場全体のイベントを主催するニッポン放送に委託し、アートフェスは、三浦市、ニッポン放送と連携する形で展示を実施。
また、ライフセーバー、更衣室・シャワーなどのインフラ管理は、三浦市観光協会へ委託したほか、全体の統括を三浦市がおこないました。

新城さん:砂浜全体をアートで彩るアートビーチパークの一環で設置した「アートキューブ」は様々な作家の作品を展示するフレームで、建築家である私自身が制作しました。アーティストたちにとっても、これだけ広い海岸を使って展示できるのは貴重な機会。この企画を続けることで、来場者だけでなくアーティストにとっても、「三浦海岸でしかできない経験ができるアートフェスティバル」として浸透させていきたいですね。
新城さんによると、2年目の今年は参加するアーティストの裾野がひろがったとのこと。
新城さん:一般公募では、約2週間の募集期間に15人以上が応募。昨年からの参加者も含め、今年は約50人が展示に参加し、そのなかには東京藝術大学の学生も9人ほど含まれています。昨年の参加アーティストが34名だったのに対し、アーティストも展示作品も拡大し、今後のイベント規模の拡大もイメージできるようになりました。


「海の家がなくなった」という地域にとってのマイナスを、「広大な砂浜をアートに使える」という新たな価値へと読み替える。この転換が、学生からプロまで多様なアーティストを引き寄せ、結果として地域外のプレイヤーとの接点を増やしています。空いてしまった公共空間を、埋め戻すべき欠落ではなく、ほかにはない資源として提示し直したこと。それが、このフェスティバルの起点になっています。
空き家、コミュニティセンター、砂浜。まちのストックが展示空間になる
今回取材した日は、実際にアートフェスティバルが開催されている期間。海や空を背景に作品が並び、潮風を感じながらアートを楽しめる、美術館とは一味異なる風景が広がっていました。ホワイトキューブの外に作品を置くという選択が、鑑賞の体験そのものを変えています。
「アートキューブ」の展示のひとつ、東京藝術大学の学生による『PRIVATE BOX #6』は、「目的や用途を持たず、何のためのものか分からないものをつくりたい」という作者である和城さんの考えから生まれた作品。三浦の砂を持ち帰り、ガラス状にした素材を使っています。作品には回して遊べる仕掛けもあります。


また、駅から海岸へ向かう道中の、空き家を利用したアートギャラリー、「芙蓉荘」にも、アーティストたちの作品を展示。中に入ると、古い民家の内装と現代のアートが調和した不思議な空間が広がっています。
新城さん:展示に使った空き家は、地元に詳しいねもと長嶋米酒店さんにお繋ぎいただき、無償でお貸しいただきました。オーナー様は、私が所属する商工会議所青年部のOBでもあり、今回のイベント使用に快く協力していただきました。
もともと解体予定だったそうで、原状回復の予定もなく、「好きに使っていい」と言っていただいたため、アーティストたちの作品の世界を思い思いに叶えることができました。
移住者としてまちの賑わいづくりを牽引する新城さんと、地域に古くから暮らす地元の人々の出会いが、もともとあった資源を活用し、アートというまちの新たな表情を生み出すことにつながりました。




2階のひと部屋では、地域で行われているビーチクリーン(海岸清掃活動)から生まれた作品を展示。地元の人たちが海岸で拾った海藻やシーグラス、漂流物などを素材として活用しています。すでにまちにある共助の活動を、作品の素材調達と参加の入口として取り込む。海をきれいにする地域活動がアートに形を変え、三浦の夏を彩っています。
作品を見るだけではなく、「このまちだからこそ生まれた作品」に出会えることも、このフェスティバルの魅力です。展示空間を新たに整備するのではなく、空き家、コミュニティセンター、砂浜といった、すでにまちにあるストックを一時的に使い回す。会場整備に大きな初期投資を必要としないこの組み立ては、資金や人手の限られた地域が公共空間の使い方を試すうえで、現実的な選択肢になります。
「見る人」を「つくる人」に。担い手をまちの中から育てる
「三浦海岸アートフェスティバル」が生むものは、“作品を鑑賞するための場所”だけではありません。アートをきっかけに、これまで接点のなかった人たちが出会い、まちのなかに新しいつながりが生まれる。作品の設置場所を探すという実務が、空き家の所有者や商店会、飲食店、小学校といった多様な主体と向き合う機会になり、結果としてエリア内の関係をつくり直していきます。新城さんには、そんなコミュニティを育む思いがあります。
新城さん:作品の展示場所として空き家や店舗を活用したり、地域の店舗や商店会、飲食店などと連携したり。アートフェスティバルを通じて、まちのさまざまな場所がつながっていますね。小学校との連携もその一つ。子どもたちがまちを歩きながら作品を見たり、私の運営するコワーキングカフェ、「BAYSIDE SHARE」で、クリエイターたちの仕事を見学したりすることで、普段なら訪れることのない場所や、出会うことのない人たちと接点を持つことができます。
その象徴的な例が、昨年に引き続き地域の小学校で制作されたフラッグ。子どもたちが描いたフラッグが掲げられたまち中の風景は、アートフェスティバルの風物詩になりつつあります。


こうした活動を通して新城さんが目指しているのは、子どもや学生にアートを身近に感じてもらうことに加え、まちの中からアート文化を育てていくことです。
新城さん:いまは、来年のアートフェスティバルに向け、小学校で流木アーティストのワークショップを計画しています。子どもたちとビーチクリーンで海岸を清掃しながら流木を拾い、それを使って作品を制作。その作品を海岸に展示することで、「作品を見るために海へ行く」のではなく、「自分たちがつくった作品を海へ届ける」という体験を提供できます。実現できれば、子どもたちにとって海やまち、そしてアートが、もっと身近な存在になっていくはずです。
アートを見せるだけではなく、地域の人たちを「つくる側」に育てていく。来場者数では測れないこの成果は、次の担い手の層として地域に蓄積されていきます。その先に目指しているのは、アーティストが一方的に作品を持ち込むまちではなく、地域そのものがアートやクリエイティブを生み出していくまちの姿です。
イベントを「仕組み」に変えられるか。三浦海岸のこれから
広い砂浜を使った作品展示は、参加するアーティストたちにとっても貴重な経験となるもの。しかし、今後もアートフェスティバルの開催を続けるにあたってクリアしなければならない課題もあると、新城さんは話します。

新城さん:海岸は風が強く、作品やフラッグが壊れてしまうことも。屋外に作品を常設することは簡単ではありません。こうした展示環境をクリアできるアーティストたちの技術や工夫は、今後も必要になると思います。また、展示に使った作品や資材を保管しておく場所が不足していることも課題です。これまで展示した作品は次回のアートフェスティバルで再び展示したいので、大きな保管場所が必要ですね。
風による破損と、保管場所の不足。いずれも、会期中だけでは解決できない、通年の場所と管理コストの問題です。屋外の公共空間で毎年続けていく取り組みには、会期外をどう支えるかという設計が欠かせません。
さらに、新城さんが目指すのは、作品を展示する場所を増やすことだけではありません。

新城さん:最終的には、夏の一時期だけのイベントではなく、年間を通してアートを楽しめるまちにしていきたいですね。そのためには、夏の時期だけでなく通年アートを展示できる場所がまち中に必要です。空き家を活用したギャラリーをもっと増やしていきたいですね。
新城さんがその先に描くのが、アーティストが活動するまちとしての三浦海岸です。
新城さん:空き家をアーティストの制作拠点として活用したり、アーティストがその土地に滞在しながら創作活動を行う、アーティスト・イン・レジデンスの仕組みをつくったり。三浦海岸を、クリエイター、デザイナー、アーティストが集まる“クリエイティブリゾート”にするのが私の目標です。
海の家がなくなったことをきっかけに始まった、小さなアートの取り組み。それは今、海岸だけでなく、駅からまちへ、そしてまちから人へと広がり始めています。
かつて海水浴客でにぎわった夏の三浦海岸に、アートという新しい風景が加わる。海の家とは異なる、三浦海岸ならではの新しい「夏」が生まれています。
取材を終えて──「空いた場所」をどう読み替えるか
浦海岸アートフェスティバルの2年間から読み取れる論点は、大きく三点あります。
一点目は、公共空間の読み替えです。海の家がなくなって生まれた広い砂浜を、「失われたもの」ではなく「ほかにはない資源」として提示し直したことが、アーティストという新しいプレイヤーを呼び込む起点になりました。担い手の減少によって空いていく場所をどう読み替えるかは、多くのエリアに共通する問いです。
二点目は、動線の設計です。砂浜だけでなく駅からの道筋に作品を分散させる構成は、鉄道駅を起点としたウォーカブルな回遊を、恒久的な整備ではなく仮設の展示によってつくり出しています。まちにすでにあるストックを一時的に使い回すこの組み立ては、初期投資を抑えながら空間活用の可能性を検証する、社会実験としての性格をもっています。
三点目は、担い手の育て方です。小学校との連携やビーチクリーンとの接続は、来場者を増やす施策であると同時に、地域の中から「つくる側」を増やす仕組みでもあります。一方で、風による破損や保管場所の不足という課題が示すのは、年に一度の開催を支える通年の場所と体制が、まだ整っていないということでもあります。通年のギャラリーやアーティスト・イン・レジデンスという新城さんの構想は、この空白を埋めるための現実的な一手として読むことができます。
イベントを続けることと、まちの仕組みに変えることは違います。三浦海岸の取り組みがその境目をどう越えていくのか、来年以降の展開に注目したいと思います。
三浦海岸アートフェスティバル2026 実施概要
開催期間: 2026年7月18日(土)〜8月30日(日)
主催: 三浦観光情報発信協議会
運営: 三浦海岸アートフェスティバル実行委員会(実行委員長:新城宏明)
活用した公共空間・地域資源:
・三浦海岸の砂浜
・空き家ギャラリー「芙蓉荘」
・駅・まちなかの展示スペース
実施内容:
・砂浜を活用したアート作品の展示・公開制作
・仮設の展示設備「アートキューブ」による公募・連続展示
・空き家を活用した期間限定ギャラリーの運営
・地域素材や伝統技術を取り入れた作品制作
・中学生・一般参加者によるフラッグ制作
参加規模:
・アートビーチパーク:主要展示9名、関連企画4名義
・アートキューブ:26名(うち大学・大学院所属10名)
・空き家活用ギャラリー:9組(個人8名・1団体)
主な成果:
・海岸での鑑賞・滞在機会を創出し、砂浜の新たな活用方法を提示
・大学生や若手作家に屋外での作品発表の機会を提供
・地域で活動する作家の発表の場を創出
・空き家を展示空間として活用し、海岸からまちなかへの回遊を促進
・駅・まちなか・海岸をつなぐ展示によって、地域資源を横断的に活用する仕組みを形成
今後の展開と課題:
・大学・研究室との連携を強化し、学生・若手作家の継続的な参加を促進
・作品の継続展示や空き家ギャラリーの会期外活用を検討
・海岸・ギャラリー・周辺店舗を結ぶ共通マップを整備し、複数会場への回遊を促進
・作品や資材の保管場所、宿泊・制作環境、会場管理体制を整備
・来場者・作家の意見収集や来場者数の計測を進め、事業の効果を検証
・行政、民間協賛、出展料などを組み合わせた継続的な運営財源を検討
・海岸とまちなかを結ぶ会場計画の調整、大学・学校への周知、空き家所有者との接点づくり、広報協力などについて行政との協議を進める