2024.03.14

「みんな担い手のまち」新しい住宅地を目指して

日本は2007年に「超高齢社会」の段階に入り、その後も高齢化がかつてないスピードで進んでいます。若者が減り、お年寄りの割合が増えれば、まちの持続性にも影響を及ぼします。

この変化は首都圏でも他人事ではなく、横浜市金沢区は、2040年には5人に2人は65歳以上の高齢者になると予測されています。
その中で、1950年代から住宅地の開発が進んできた富岡・能見台は、高齢化が進んでいる上に若年世代の住民割合が少ないのが現状です。

資料提供:まちづくりIMAGE BOOK

富岡・能見台は、横浜の中心街や都心への交通アクセスが良い立地でありながら、豊かな自然に恵まれているため、子育てに適した住環境のエリアです。

かなざわnewcal  野球やテニス、お散歩にも!富岡・能見台の憩いの場「富岡西公園」 エリア内には富岡西公園や能見台中央公園をはじめとした多くの公園があるhttps://newcal.jp/kanazawa/spot/KNA000005/

それにもかかわらず、若年層の流入が進まず、高齢化が止まらない状況下では人口は減少することになり、まちから活力が失われていくのは明らかです。

この現状を何とかしようと、地域・企業・学校・行政のみんなが担い手となってスタートしたのが「富岡・能見台の丘と緑のまちづくり」。通称”おかまち”です。

公民連携で「住みたい、住み続けたい、訪れたい」まちをつくる

おかまちが始まるきっかけとなったのは、横浜市と京急電鉄による協定でした。京急沿線で「住みたい、住み続けたい、訪れたい」と思えるまちづくりを進めようと、2018年7月に「公民連携のまちづくりの推進に関する連携協定」を締結しました。

これを機に、地域に住む人や学校などが加わって、活動が始まりました。

「暮らしやすい地域づくりに向けたアンケート」調査をはじめとして、2019年からはまちの将来や住み続けたいまちを考える「まちづくり ワークショップ」が行われました。
ワークショップには、このまちに住む人や横浜市立大学の学生などが集まり、地域の魅力や課題を出し合うことで、エリアの課題が浮かび上がってきます。

まちづくりワークショップの様子 まちづくりイメージブック(p47)

坂の多いまちで移動の負担を減らす「とみおかーと」

富岡地区は高台にある住宅地が多く、見晴らしの良さや開放感が魅力ではあるものの、日々の買い物などで急な坂を上り下りするのは、お年寄りや妊婦さん、子育て世代には大きな負担となります。

エリア内にはいたるところに急な坂がある『まちづくりイメージブック』(p60)

この課題を解決するには、地域の状況に適した交通手段を考えなければなりません。しかも、持続可能なものである必要があります。

そこで始まったのが「とみおかーと」です。この地域の交通事業者である京急電鉄と横浜市、横浜国立大学、LocaliSTとの協働で、2018年に実証実験としてスタートし、トライアンドエラーを繰り返すことで、地域のニーズに即した手法として、ルート上であれば、手をあげて止まったとみおかーと車両に乗り降りができるようになりました。実証実験を継続してきたことで利用者は徐々に増えていき、2022年12月には1日平均利用者数が16.6人だった利用者は、2023年10月には43.6人にまで伸びました。

実証実験としてのとみおかーとは2023年11月に終了しましたが、これからも続けてほしいという声も挙がっており、今後の展開が期待されます。

おかまち通信vol.7より

まちの魅力をアップさせる拠点をつくる

また、まちに住み続けたいと思ってもらうには、人々の交流の場や、遊び・学びなどの場があることが重要なポイントになります。

このエリアには、現役を引退した人の中にさまざまな知識や技術を持った人がいます。そういう人たちの経験やスキルを活かして交流できる場をつくりたいという声が、地域住民からも出ていました。

多世代交流の場や、 専門知識や技術をもった人たちがまちづくりの担い手として活躍できる場をつくるための試みの一つとしてオープンしたのが「富岡薬局前おかまちリビング」です。

京急富岡駅前にある富岡薬局の待合室を「富岡薬局前おかまちリビング」と名付け、まちづくりの拠点として2023年6月にスタートしました。

地域・企業・学校・行政の四者で話し合って使い方を考えるなかで、さまざまなアイデアが出てきており、これまでに実現したものとしては、七夕飾りや小学生の夏休みの宿題を大学生がサポートするイベントなどがあります。2023年12月からは多世代が交流する定期イベント「こどもひろば」もスタートしており、イベントという機会に人々が集うことで、世代を超えた交流が実現しています。

おかまちXより https://twitter.com/okamachi_y/status/1749963740962046251

みんなで力を合わせて、できることからはじめる

おかまちは、地域の実情に即した形で改善を繰り返しながらいち早く実現できた要因のひとつに、地域・行政・学校・企業が力を合わせてまちづくりに臨んでいるということが挙げられます。

地域住民や大学生による「まちづくりワークショップ」でまちづくりのためのアイデアを出し、その中から重点的に取り組む課題を検討するため、有識者や行政、企業などが参加する「テーマ別ワーキングループ」があります。
この二つの取組を推進に加え、地域代表や商店会代表、有識者、行政、地域の交通業者である京急電鉄が参加し、お互いに情報を共有したり、意見交換をしたりする場として「まちづくり懇談会」も設けられています。

IMAGE BOOKより

みんなで力を合わせると、地域の力だけでは難しかったことや、行政だけでは手の届かなかったことができるようになります。また、有識者の知見や企業の技術力などが活かされることで、取り組みの質も上がります。

その結果として、まちづくりの推進力が上がり、よりスケールの大きなプロジェクトも実現できるようになるのです。

『おかまち通信』vol.6より

取り組みをスピードアップし、よりパワフルにしていくために、さまざまな立場の人たちが力を合わせ、できることからはじめていくことで、おかまちの取り組みは着々と実を結び始めています。