2024.03.14

川崎・八丁畷での地域主導のビール祭りがまちに及ぼす変化とその価値

「八丁畷のまち」

京急川崎駅から1駅、時間にしてわずか1分ほどの距離にあり、京急本線とJR南武線が乗り入れる八丁畷駅。賑やかな川崎駅周辺に比べると、新しい住宅が立ち並ぶものの、昔からこの街を見守る商店街もあり、落ち着いた雰囲気のエリアです。この八丁畷駅前に、まちの人々をつなぐ交流拠点施設「Park Line 870(はっちょう)」が誕生したのは2023年4月のことでした。

Park Line 870 イメージ

その年の夏、Park Line 870で開催されたのが、「川崎ビール祭2023  in Park Line 870」です。

地域や京急沿線にあるクラフトビールの名店が八丁畷駅前に一堂に会したこのイベントは、地域の人々やビールファンによって大きな盛り上がりを見せ、6日間でおよそ3000人が来場しました。

この記事では、イベント当日の様子とともに、 Park Line 870を中心に生まれはじめた駅前の賑わいや、人々のつながりについてレポートします。 

八丁畷駅前でまちをつなぐ交流拠点「Park Line 870(はっちょう)」

川崎ビール祭2023の会場となったPark Line 870(パークラインはっちょう)は、八丁畷の住民や地域事業者、教育機関など、地域に関わる人々の交流を創出しながら、地域の声を集め、地域の価値を高める施策検討を行う場として、学校法人神奈川大学、川崎市、京急電鉄の3者によって開設されました。

Park Lineとは、道路を公園のように活用する取り組みのこと。

道路だった空間には、駅前らしく線路がペイントされています。普段は日替わりでフードトラックが出店し、オープンカフェのように過ごせる歓談スペースとして利用されているほか、シェアサイクルの貸し出しも。また、イベントや趣味の発表の場などとしても活用されており、八丁畷駅前の賑わいを日常的に創出しています。

川崎ビール祭2023 in Park Line 870 

そのPark Line870を会場として、8月18日(金)~20日(日)、25日(金)~27日(日)の6日間にわたって開催された「川崎ビール祭 2023 in Park Line 870」。

気温が30℃を超える真夏日となりましたが、屋外空間でビールを片手に笑顔でお喋りを楽しむおよそ3000人の人々で賑わいました。

本イベントを主催した麻生達也さんは、飲食店経営をしながら酒造りを一から学び、自身の醸造所を立ち上げてクラフトビールを製造しています。

川崎祭り実行委員会の代表でもある麻生さんは、「新たな地域交流拠点であるPark Line 870でビール祭を行うことで、この地域でのまちおこしの機会になるのでは」と考え、川崎市や京急電鉄とも連携し、川崎ビール祭の開催にこぎつけました。

笑顔と賑わいを生み出すクラフトビール

今回のビール祭りに出店したのは、川崎市の東海道 BEERやT.T Brewery、TKBreweryをはじめとした選りすぐりのブルワリーで、各週4店舗ずつ出店しました。このラインナップが多くのビールファンを八丁畷に呼び寄せます。

初日にはオープンと同時にたくさんの人が訪れ、予定数を早々に完売。再入荷の対応を行う店舗もみられるほどの賑わいをみせました。

本イベントは、金・土・日の3日間連続開催を2週にわたって行いましたが、曜日によって訪れる人にも違いがありました。

平日は近隣住民が賑わいに関心を持ち、駅改札を出てそのまま来場する様子が多かったのに対し、く土日は近隣住民をはじめ、沿線各地から足を運ぶ来場者が多く見られました。曜日によって来場者層を変化させることで、多様な人々が八丁畷駅を利用し、八丁畷のまちを知るきっかけとなったのです。

さらに地元では、川崎ビール祭をきっかけに八丁畷のグルメ情報も知ってもらおうと、飲食店が協力して「八丁畷グルメマップ」を制作。地元の人にもあまり知られていなかった八丁畷の情報をマップ化することで、外の地域からの来訪者だけでなく、八丁畷で暮らす住民がまちの魅力を知る機会となりました。

また、イベント開催に合わせて会場に隣接する京急ストア八丁畷店の協力のもと店舗で使用できる「ビールに合うおつまみ7種割引券」を配布。会場以外の場所にも来場者に足を運んでもらうことに成功していました。
このように、イベント来場者の地域回遊をデザインすることで近隣の地元飲食店も行列ができるほど賑わうなど、地域全体の消費活動の活発化にもつながっています。

 来場者アンケートでは「八丁畷に初めて訪れた」という人が多く、「いつも電車で通過するだけの駅だったが、今回のビール祭がきっかけで初めて降りました」といったコメントも見られました。また、地元住民からは「まちの雰囲気が良くなった」「明るくなった」という声も。来場者のうち、95%の人が「このイベントに対して好印象である」と答えたことは、本イベントが八丁畷の賑わい創出に寄与し、またそれが地域住民や沿線を利用する人々に好意的に受け止められた結果と言えるでしょう。

京急沿線に広がりゆくビアフェス

大盛況の川崎ビール祭 2023 in Park Line 870を終え、主催者の麻生さんは「川崎市内のさまざまな場所で同様のビアフェスを行うことで、地域の活性化につながる手応えを感じている」と話してくれました。そのためには、自治体や地域に住む人たち、そして地域企業の力が不可欠だとも。

京急電鉄でも、今後は沿線のさまざまなエリアで今回のようなビアフェスを開催していこうとしています。ビアフェスによって、人々がなじみのないエリアへ移動するきっかけを提供し、京急沿線を利用する人々の暮らしの楽しみや交流、地域事業者の主体的な事業促進やエリアを超えた協業を創出することで、沿線地域の魅力をさらに多くの人に伝えていきたいと考えているからです。

エリアマネジメントでまちづくりを支える
「newcalプロジェクト」

川崎ビール祭 2023 in Park Line 870は、川崎市と連携し、地域と進めているエリアマネジメント活動「newcalプロジェクト」の取り組みの一つです。

本イベント開催時には、京急電鉄がPark Line 870の空間提供をしたほか、地域住民や事業者、川崎市観光協会などと連携しながら告知活動を行うなど、イベントを陰から支えました。

京急電鉄はこのような取り組みをはじめとする鉄道・駅を中心としたまちの活性化を行うため、エリアマネジメント活動を推進する「新しい価値共創室エリアマネジメント推進担当」を2023年4月に開設。地域の事業者や団体と「共創」しながら沿線周辺のまちづくりを行うことで、新しい価値を創造することを目指しています。

京急電鉄の担当者は「それぞれのまちに住んでいる人が主役となり、京急電鉄が黒子(くろこ)となって、住んでいるまちに誇りを持てるようなまちづくりをしていきたい」と話します。

今回のイベントのように、ビールをきっかけとした地域コミュニティの形成モデルは、新たな切り口として沿線全体に広がっていくことが期待されます。

京急電鉄が展開する「newcalプロジェクト」の取り組みにより、八丁畷駅前でのPark Line 870の存在が「まちのきっかけ」を生み出すように、さらなる「きっかけ」を生み出す沿線としての未来。そしてそのきっかけに出会った人々の暮らしを、少しだけ想像できた取材となりました。