2024.03.14

産学連携の取り組みが与えるまちづくりへの効果と未来

学生がコンテンツを企画したラジオ配信の様子。地域で活動している人も数多く出演した。

まちづくりに新しい発想を。京急電鉄が取り組む産学連携の狙い

学生と地域事業者、行政が連携し、地域の新しい価値を創出する――。そんな「産学連携」のまちづくりが、京急沿線で広がり始めています。そこで去る2023年、京急沿線、大田区エリアの「平和島駅前地域交流拠点」で行われた2つの産学連携プロジェクトに潜入し、その取り組み内容をキャッチ。今回は、2つのイベントの様子と主導した学生たちの声をレポートするとともに、こうした取り組みがまちづくりにもたらした成果について考察します。

地元の老舗とコラボし、「大田区らしさ」にフォーカス

地元の老舗惣菜屋「佃浅」と学生のコラボによる、大田区名物の海苔を使用した限定メニュー。

2023年2月、「平和島駅前地域交流拠点」で学生の卒業制作の場と称して開催されたのが、京急電鉄と日本工学院専門学校による『平和島ぽかぽかデイズ』。地元の老舗惣菜屋、「佃浅商店」とコラボしたユニークなオリジナルメニューの提供や、交流拠点のフェンス装飾などで会場がにぎわいます。来場者からは「学生ならではの新鮮な視点で『大田区らしさ』を再発見できました」と好感の声が多数寄せられていました。

建築学科の学生らが装飾したフェンスは、イベント後も地域交流拠点に彩りを加えています。

一方、プロジェクトを主導した学生たちに話を聞くと、「企画から告知・宣伝、当日の運営にまで一貫して携わることで、地域に深く関わり、課題解決に必要な視点を身につけることができました」とのこと。自らのアイデアを社会実装するまでの経緯と結果は、教室では学べない貴重な体験になったようです。

地元の老舗とコラボし、「大田区らしさ」にフォーカス

家族連れが交流できる休憩スペースや子ども向けのブースを設置。

2023年3月に同じく「平和島駅前地域交流拠点」で開催された『一笑』は、玉川大学観光学部・小林等ゼミの生徒が取り組む”ゼロイチ活動”※の一環として行われた産学連携イベントです。コロナ禍で「人とのつながりの大切さ」を感じたゼミ生自らが、地域の人々との交流を生みだすことをテーマに企画を立案。移動販売のプラットフォーム「モビマル」を運営する株式会社シンクロ・フードと京急電鉄にプレゼンテーションをしたことがきっかけで3者が連携し、開催までこぎつけた。

※”ゼロ・イチ活動”とは?
玉川大学観光学部 小林等ゼミがテーマに掲げる「アントレプレナーシップ(起業家精神)」のもと、「学生のうちにまだ世の中に存在しない製品・サービス・価値を創りだす取り組みを”ゼロイチ活動”とし、10人のゼミ生がそれぞれ”ゼロイチ活動”を企画したもの。

お客様が伝えたい想いを花言葉に照らし合わせながらフレーバーを選択するアイスクリーム店、「愛好」。

当日の会場は、学生らがプレゼン時に掲げた「交流」というテーマの通り、家族連れ向けの休憩スペースや、花言葉からフレーバーを選ぶアイスクリーム店などがにぎわい、学生と地域の住民、住民同士へと交流が広がる様子が見られました。

参加した学生からは、「地域事業者と連携して事業を手がけたことで、課題の言語化や改善するためのPDCAサイクルの実践、収益計画の組み立て方を体系的に学べました。単にイベントを運営するだけでなく、ビジネス視点でアイデアを実現する力が身につきました」と学びへの手ごたえと今後に向けた自信が伝わってきました。

【まとめ】地域と学生、双方の可能性を最大限に


今回筆者が、2つの産学連携プロジェクトに訪れてみて感じたのは、若者がまちづくりの中心に立つ意義の大きさです。産学連携は、地域に学生の視点を取り入れ、新しい価値を創出できるだけでなく、学生と地域の人が交流する機会となることで地域の人々の意識をまちづくりに向け、まちづくり人材を増やすことにもつながるでしょう。

実際に、今回訪れた2つのイベントでも、イベントをきっかけに地域人脈が拡大し、新たなまちづくりの施策につながったという声も多く届きました。また、学生がビジネスを通して地域に深く関わっていくことは、課題解決や価値創出の貴重な実践経験にもつながり、彼らの今後の可能性を最大限に開くことができる意味のある機会にもなり得るでしょう。

まちづくりは今、これまでの自治体が主導する大規模な都市開発的手法から、地域の人々が自らがまちについて考え、トライアンドエラーを繰り返して形にしていくタクティカルな手法が主流になりつつあります。

こうした新しいまちづくりの力になるのはまさに、自分が暮らすまちを選ぶことができる若い世代の人々。若者自らがまちについて考え、理想を描き、行動していく姿勢が求められる産学連携は、地域住民と学生の双方でまちづくりそのものを加速させるという大きな可能性を秘めているのです。

一方、若者がまちづくりに参加するためには、地域事業者や自治体が地域と共創し、若い世代に向けた学​​び・教育の機会や、若い世代の視点を取り入れたまちづくり、若い世代が集う場所づくりなどを提供することが不可欠です。

京急沿線地域では、地域事業者や行政と学生による産学連携の取り組みが加速しているとのこと。今後もその動向に注目してたいと思います。